特発性全般性てんかんを有する妊娠可能期女性に投与されていたバルプロ酸を他の薬剤に変更したらどうなるのか:426例の解析

公開日:

2024年4月18日  

最終更新日:

2024年4月20日

Predictors of Seizure Recurrence in Women With Idiopathic Generalized Epilepsy Who Switch From Valproate to Another Medication

Author:

Irelli EC  et al.

Affiliation:

Department of Human Neurosciences, Sapienza University, Rome, Italy

⇒ PubMedで読む[PMID:38569127]

ジャーナル名:Neurology.
発行年月:2024 May
巻数:102(9)
開始ページ:e209222

【背景】

バルプロ酸は全タイプの全般性てんかんに有効であることから,かつては特発性全般性てんかんの第1選択薬であった.しかし,妊娠中のバルプロ酸服用が新生児の先天奇形や神経心理学的障害を引き起こす可能性が指摘されて以来(文献1,2),妊娠可能期(妊孕期)女性ではバルプロ酸を他の抗けいれん剤に変更することが推奨されている(文献3,4).しかし他剤への変更に伴い,てんかんコントロールが困難となるリスクも指摘されている(文献5,6).
本研究は,特発性全般性てんかんに対して投与されていたバルプロ酸が他の薬剤に変更された妊孕期女性426例(イタリアの16施設)を対象に,変更後のけいれん再発率を検討したものである.

【結論】

変更時の年齢中央値は24歳,変更前のバルプロ酸投与量中央値は750 mg/日であった.変更後の抗けいれん剤はレベチラセタムが最多の46.2%で,ラモトリギンの32.9%が続いた.変更後のGTCSは1年以内で24.6%,2年以内で32.6%に生じた.多変量解析では,月経周期依存性にけいれん悪化があった患者,高いバルプロ酸投与量,複数のけいれんタイプ,変更直前の短いけいれん無し期間の4因子が変更後のGTCS再発と独立相関していた.レベチラセタムかラモトリギンに変更された337例のIPTW解析では,レベチラセタムの方が2年以内のGTCS再発リスクは低かった(調整ハザード比:0.59,p =.008).

【評価】

薬剤が出生児に与える影響への危惧などの理由から,全般性てんかんを有する妊孕期女性の抗けいれん剤をバルプロ酸から他の薬剤に変更したときに,てんかんのコントロールが悪くなる例があることは以前から知られていた(文献5,6).しかし,これまでのところ,薬剤変更に伴うてんかん再発のリスク因子は十分に明らかではなかった.
本研究はイタリアの16施設の426例を対象とした後方視解析で,薬剤の変更がその後のてんかんコントロールに与える影響を検討したものである.対象患者のてんかん症候群分類は,若年ミオクロニーてんかん(JME)55.6%,全般性強直間代発作のみを持つてんかん(GTCA)21.8%,若年欠神てんかん(JAE)14.6%,小児欠神てんかん(CAE)8%であった.
薬剤変更後のGTCSは1年以内で24.6%,2年以内で32.6%に生じた.薬剤変更後のてんかん再発のリスク因子は,月経周期依存性のけいれん悪化があった患者,高いバルプロ酸投与量,複数のけいれんタイプ,変更前の無けいれん期間が短いことの4項目であった.この4項目を使用したてんかん再発予測モデルのAUCは0.71であった.この結果に基づけば,これらの4因子を有する妊孕期女性患者では,バルプロ酸から他の薬剤への変更後のてんかん再発リスクが相当に高いと考えて,妊娠のかなり前から,代替薬剤の追加に併せてバルプロ酸の緩徐なテーパリング・オフを行うことや,丁寧な経過観察が必要である.てんかんの再発リスクがかなり高いと想定される患者では,新生児に対するリスクが少ない少量(700 mg/日など)のバルプロ酸を残しておくことを考慮して良いかもしれない(文献7,8).
なお,本研究の対象患者で,バルプロ酸の代わりに新たに投与が開始になった薬剤で最も多いのがレベチラセタム,続いてラモトリギンであったが,これはこの2剤が最も催奇形性が少ないと考えられているためであろう(文献9,10).IPTW(傾向スコア法による逆確率重み付け)解析では,レベチラセタム投与群の方がてんかん再発リスクは少なかった.これは対象患者の過半がJME(55.6%)であったこと,JMEに対するレベチラセタムの効果が高いことが影響しているのかも知れない.
本研究は後方視研究ながら,426例という大きな患者集団を対象に詳細な解析を行っており,今回得られた知見は,今後のバルプロ酸服用中の妊孕期女性患者へのインフォメーション,変更薬剤の選択,経過観察に関して重要な意義を有している.

<コメント>
抗けいれん剤の変更に関する研究では,交絡因子の影響により明瞭な結論を得にくいが,本研究で示された4つの発作再燃リスクはいずれも,切り替えを考える際に慎重を要する群として考えられていたもので,今回それが改めて多施設共同試験の結果として示されたことになる.中央値3年の無発作期間をもつGTCSが切り替え後2年以内で30%程度の再発を示したことも,GTCSにはVPAがより有効であるというこれまでの認識とも合致する.
注意が必要なのは,この論文でVPAからの切り替えを行った対象は,VPAからの切り替え前6ヵ月に14%の患者が少なくともGTCSを生じ,40%(weekly,dailyが15.5%)の患者がミオクロニーや欠神発作を生じているという点である.すなわち,本研究は半分近くがコントロール不良である妊娠可能な患者群における,他剤への変更結果をまとめたものといえる.これは,発作は落ち着いているが,催奇形性への懸念からあえて変更する際の発作再発リスクとはニュアンスが異なる.
さらに,全発作抑制期間は中央値1年程度,GTCSで中央値3年程度であり,GTCS以外の特発性全般性てんかんは抑制期間1年程度で切り替えた患者が相当数含まれていそうである.発作再発の重みは,特発性全般性てんかん症候群の中でもGTCSを伴うか否かで大きく異なるため,胎児奇形リスクの軽減目的で薬剤を変更する場合に,例えばJME+rare GTCSの患者ではGTCSの再発リスクをどう評価するかに頭を悩ませる.この論文では,多くの患者は複数(中央値2)の発作型を示しており,ミオクロニーや欠神発作が残存している患者での切り替えに伴うGTCS発生リスク,という切り口も有用と思うが,その詳細は記載されていない.
また,変更薬剤の切り替え方法,変更前後の薬剤の用量相関,各薬剤の血中濃度,切り替え中の発作発生率が示されていない点などは残念な点である.(鹿児島大学脳神経外科 花谷亮典)

執筆者: 

有田和徳

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