公開日:
2024年4月18日最終更新日:
2024年5月10日Prognostic Value of Complete Resection of the High-Frequency Oscillation Area in Intracranial EEG -A Systematic Review and Meta-Analysis
Author:
Wang Z et al.Affiliation:
Department of Neurology and Neurosurgery, University Medical Center Utrecht Brain Center, University Medical Center Utrecht, the Netherlandsジャーナル名: | Neurology. |
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発行年月: | 2024 May |
巻数: | 102(9) |
開始ページ: | e209216 |
【背景】
難治性てんかん患者における頭蓋内電極脳波測定で観察される高頻度オシレーション(HFO)はてんかん原生との関係が強く示唆されており,その周波数によって,fast ripple(FR):250–500 Hzとripple(R):80–250 Hzに分けられる.この2種類のHFOの摘出範囲と術後のてんかんコントロールに関しては議論が続いている.
本研究は,過去の31報告703例を対象としたメタアナリシスである.このうち602例ではFRに関して,424例ではRに関して解析されていた(重複症例あり).
手術後のエンゲルクラスI,ILAEクラス1,あるいはけいれんなしを術後転帰良好と判定した.
【結論】
術後転帰良好はFR完全切除群で81%,R完全切除群で82%であった.HFO完全切除群では非完全切除群より術後転帰良好が多かった(FRではOR6.38,RではOR4.04,共にp <.001).HFO完全切除による術後転帰良好予測のAUCはFRで0.81,Rで0.76であった.FR完全切除群における術後転帰良好と高い相関があった因子は,後方視研究,20歳以下,長期(術中のみでなく)の頭蓋内電極脳波測定,HFO自動検出法の使用,HFOの閾値設定,発作間欠期のFRであった.側頭葉てんかんでは非側頭葉てんかんに比べて,FR完全切除群における術後転帰良好の割合が低かった(OR0.37,p =.006).
【評価】
頭蓋内電極脳波測定で観察される,fast ripple(FR)やripple(R)といった高頻度オシレーション(HFO)は,てんかん原生脳組織を描出する重要なバイオマーカーとして認識されてきている(文献1,2,3).しかしこれまでの研究では,HFOの除去範囲と術後転帰との相関については必ずしも見解が一致してはいない(文献4,5).
本メタアナリシスでは,HFO完全切除群では非完全切除群より術後転帰良好例が多く,HFO完全切除を指標とした術後転帰良好の予測精度は比較的良好であり,特にFRの完全切除ではAUCが0.81であった.
著者らはこの結果を基に,HFO領域の完全切除は術後転帰良好と相関し,特にFRの完全切除は様々な患者群で良好な転帰の予測因子であると結論している.
一方,側頭葉てんかんでは非側頭葉てんかんに比べて,FR完全切除群における術後転帰良好の割合が低かった.最近公表されたThe HFO Trialは,術中脳波測定におけるてんかん性放電(IED)を対照としたHFOの非劣性ランダム化試験である(文献6).この試験でも側頭葉てんかんにおけるHFOの非劣性は示されなかった.一方,側頭葉外てんかんでは,交絡因子調整後は非劣性が証明されている.
また,本研究の患者個人レベルの解析では,術後転帰良好例では,MRI病変無し群と比較して有り群の方でFR領域の完全切除例が多かった(p =.02).
こうした結果をみると,FRの完全切除は結節性硬化症などのMRI病変を有する非側頭葉てんかんでこそ追求されるべきなのかも知れない(文献7).今後は非側頭葉てんかんを対象にした,前向き試験でそのことが検証されるべきであろう.
<コメント>
難治てんかんに対するてんかん焦点切除術を行うにあたり,発作抑制に必要十分な切除領域(epileptogenic zone, EZ)を正確に決定できる指標は見つかっていない.てんかん患者の脳から記録される高周波振動(high-frequency oscillations, HFO)がEZの推定に有用か否かは,過去四半世紀にわたり注目の的であった.後方視的研究ではある程度の有用性が示されていたものの,個々の患者においては術後成績予測への有用性が示されなかった前方視的研究報告もあり,残念な空気が流れていた.本論文は,これを背景としたうえで,様々な要因(研究デザイン,患者年齢,てんかんの種類,HFO検出方法,HFO出現領域決定への閾値設定,頭蓋内脳波の記録状況等)を考慮したうえで,HFO出現領域の完全切除が術後成績の予測に有用か否かを検討したメタアナリシスである.31の研究が解析対象となり,HFO出現領域の完全切除が行われた事例では,約8割において発作抑制が得られていた.特に後方視的研究,小児患者,長時間頭蓋内脳波記録,出現頻度への閾値設定によるHFO出現領域の決定,HFOの自動検出,発作間欠時HFOの解析では,術後成績予測への有用性が高かった.このように,EZの推定に対するHFOの有用性はまだ完全に否定されたわけではない.今後,信頼性のより高い研究が必要であり,技術的側面としては,少なくともHFOの検出方法およびHFO出現領域の決定方法の統一が必要である.また,てんかんの種類,年齢,頭蓋内脳波の記録条件の差異等を検討できるだけの十分な症例数が必要である.そのためには,多施設が協力して充分な症例数のデータ(頭蓋内脳波,切除した領域の情報,術後成績,その他の臨床情報)を蓄積し,そのデータを事後に統一された方法で解析できるような体制作りが必要と考えられる.(岡山大学小児神経科 秋山 倫之)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Nariai H, et al. Prospective observational study: fast ripple localization delineates the epileptogenic zone. Clin Neurophysiol. 130(11): 2144-2152, 2019
- 2) Fujiwara H, et al. Resection of ictal high frequency oscillations is associated with favorable surgical outcome in pediatric drug resistant epilepsy secondary to tuberous sclerosis complex. Epilepsy Res. 126:90-97, 2016
- 3) Cho JR, et al. Resection of individually identified high-rate highfrequency oscillations region is associated with favorable outcome in neocortical epilepsy. Epilepsia. 55(11):1872-1883, 2014
- 4) Jacobs J, et al. Removing high-frequency oscillations: a prospective multicenter study on seizure outcome. Neurology. 91(11):e1040-e1052, 2018
- 5) Roehri N, et al. High-frequency oscillations are not better biomarkers of epileptogenic tissues than spikes. Ann Neurol. 83(1):84-97, 2018
- 6) Zweiphenning W, et al. HFO study group. Intraoperative electrocorticography using high-frequency oscillations or spikes to tailor epilepsy surgery in the Netherlands (the HFO trial): a randomised, single-blind, adaptive non-inferiority trial. Lancet Neurol. 21(11):982-993, 2022
- 7) Okanishi T, et al. Interictal high frequency oscillations correlating with seizure outcome in patients with widespread epileptic networks in tuberous sclerosis complex. Epilepsia. 55(10):1602-1610, 2014
参考サマリー
- 1) 限局性皮質異形成における脳磁図上でのてんかん棘波起始ゾーンと棘波ピークゾーンの関係:新たな手術戦略の提唱
- 2) 脳磁図はステレオ脳波電極設置部位とてんかん焦点切除範囲の決定に有用である
- 3) 難治性てんかんを示す限局性皮質異形成に対する手術成績を左右する因子:355例の検討から
- 4) 難治性てんかんを伴う限局性皮質異形成(FCD)タイプIIに対する非侵襲的評価に基づく病巣摘出術の効果
- 5) 内側側頭葉てんかんに対する内視鏡的な経上顎洞-経側頭極手術:てんかん外科にも下垂体外科医の出番か?
- 6) MRIで所見が無いか微妙な側頭葉てんかん患者における手術療法の効果を予測する因子は何か
- 7) 難治性てんかんに対する再手術3年後のEngelクラス1が71%:ミュンヘン大学の38例
- 8) 超柔軟細径血管内電極はブレイン・マシン・インターフェースの新たな武器になるか:サイエンス
- 9) 選択的海馬扁桃体切除と術中脳波所見に基づいた前部側頭葉切除の比較:順天堂大学から
- 10) 側頭葉てんかんに対する前部側頭葉切除術が夢の内容に与える影響