経脳溝傍神経線維束法(MIPS)を用いた低侵襲的血腫除去は脳葉内出血患者の機能予後を改善する:米国ENRICH試験

公開日:

2024年4月18日  

最終更新日:

2024年4月20日

Trial of Early Minimally Invasive Removal of Intracerebral Hemorrhage

Author:

Pradilla G  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Emory University School of Medicine, Atlanta, GA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38598795]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2024 Apr
巻数:390(14)
開始ページ:1277

【背景】

天幕上の脳内出血に対する血腫除去手術は患者の機能予後を改善しないとの報告が多い.その理由として手術操作そのものが健常脳組織を障害している可能性が挙げられる.本稿は米国32施設が参加した,低侵襲的な経脳溝傍神経線維束法(MIPS,文献1,2)を用いた血腫除去手術が機能予後に与える影響に関するRCTである.対象は前方基底核部か脳葉内に発生した血腫量30-80 mLの脳内出血の患者300例で,最終健常確認24時間以内にMIPSか保存的治療に1:1で割り付けられた.全体の約3割は基底核出血で約7割は脳葉出血であった.一次エンドポイントは,発症180日目の効用加重修正Rankinスケール(UW-mRS)とした.

【結論】

発症180日目のUW-mRSは手術群0.458,保存的治療群0.374,群間差は0.084(95%CI:0.005-0.163)で,手術群優越の事後確率は0.981と事前設定優越閾値の0.975を超えていた.群間差は脳葉内出血群では0.127であったのに対して基底核出血群では-0.013であった.発症後30日間の死亡率は保存的治療群の18.0%に対して手術群では9.3%と少なかった.手術群の5例(3.3%)で,術後出血と神経症状の悪化が認められた.
脳内出血に対する発症24時間の低侵襲的血腫除去手術(MIPS)は機能予後を改善するが,これには専ら脳葉内出血への手術が寄与しているようである.

【評価】

従来,脳内出血に対する手術療法の意義は救命効果に限定され,機能予後改善効果は否定されている(文献3,4,5).
血腫腔への血栓溶解剤注入+カテーテル吸引法(MISTIE III)3相試験は期待されていたが,機能予後の改善をもたらさなかった(文献6).
低侵襲的な経脳溝傍神経線維束法(minimally invasive trans-sulcal parafascicular surgery,MIPS)は,従来の脳回部皮質切開ではなく,脳溝底部皮質とU線維を切開して,チューブ状の透明リトラクターを挿入し,白質線維束と平行に脳内血腫にアプローチする方法である(文献1,2).実際のアプローチに当たっては,血腫の位置のみならず,その近傍を通過する白質線維束(投射,連合,交連の各線維束)をMRIトラクトグラフィーであらかじめ把握して,これらの線維束に侵入することなく平行に進めるように,進入点(脳溝)と進行方向を決定している(文献3,4).また,血腫除去操作では外視鏡あるいは内視鏡を使用して血腫除去と止血を確実なものとしている.
本ENRICH(Early Minimally Invasive Removal of ICH)試験では,脳葉内出血に対するMIPSによる血腫除去手術が保存的治療と比較して機能予後(発症180日目のUW-mRS)を改善することを明らかにしている.一方,基底核出血に関しては,UW-mRSがむしろ手術群で低く,その効果は認められていない.
本シリーズで基底核部出血と比較して脳葉内出血が多いのは,175例までの登録が終了した段階での中間解析で,基底核出血に対する手術の無用さが示唆されたため,adaptation ruleが発動され,その後の本試験への登録が専ら脳葉内出血のみとなったからである.
本RCTの結果を受けて,脳内出血に対する経脳溝傍束法(MIPS)を用いた低侵襲的血腫除去は今後普及すると思われる.その中で,MIPS手術の最も良い適応となる脳内出血の部位,発症から手術までの時間,血腫量などが改めて評価の対象となるであろう.また,MIPSとMISTIE(文献6)や定位的内視鏡下血腫除去手術(SCUBA,文献7)など他の低侵襲手術との比較も重要な研究課題であろう.

執筆者: 

有田和徳

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