定位手術的照射(SRS)による内包前脚切裁術は強迫性障害に有効:11報告180例のメタアナリシス

公開日:

2024年4月18日  

Benefits of stereotactic radiosurgical anterior capsulotomy for obsessive-compulsive disorder: a meta-analysis

Author:

Gupta R  et al.

Affiliation:

University of Minnesota Medical School, Minneapolis, MN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38552242]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Mar
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

強迫性障害に対する外科的な治療のターゲットとして内包前脚が注目されてきた.内包前脚には,強迫性障害の成立に深く関係している前頭前野と視床背内側核を結合する白質線維が存在している(文献1,2).これまで強迫性障害に対する内包前脚切裁の方法としては,機械的破壊,レーザー焼灼,高周波焼灼,SRS(ガンマナイフなどの定位手術的照射),収束超音波が用いられてきた(文献3).本稿はSRSによる内包前脚切裁に関するメタアナリシスである.対象は2008年以降公表の11研究に含まれた180例.効果の評価にはエール・ブラウン強迫性障害スコア(Y-BOCS)とベック抑うつ自己評価質問表(BDI)を用いた.

【結論】

Y-BOCSは治療前の平均33.3から17.5に低下した(p <.001).Y-BOCSに基づいた治療効果の評価は,反応60%,部分反応10%,寛解18%,悪化4%であった.Y-BOCS改善程度は治療からの経過時間に相関した.ランダム効果モデルによる解析では,最終追跡時の平均BDIスコアは,治療前と比較して差はなかった.しかし,手術前後のBDI/BDI-IIスコアがそろっていた27例の対応のあるt検定では,手術後のBDI/BDI-IIスコアは有意に改善していた(23.9 vs 14.6,p <.001).有害事象は全体で235件で,気分の変化,うつや不安の悪化,無気力などが含まれていた.

【評価】

強迫症あるいは強迫性障害とは,きわめて強い不安感や不快感(強迫観念)をもち,それを打ち消すための行為(強迫行為)を繰り返すものとされる(文献4).強迫行為には「手を一日に何十回・何百回も洗う」「会社に行く途中に何度も自宅に戻って施錠の確認をする」「誰かに危害を加えたかもしれないという不安が心を離れず,新聞やテレビに事件・事故として出ていないか確認したり,警察や周囲の人に確認したりする」「物の配置に一定のこだわりがあり,必ずそうなっていないと不安になる」「不吉な数字・幸運な数字に,縁起をかつぐというレベルを超えてこだわる」などが知られている(文献5).強迫性障害の一般人口における生涯有病率は2.5%と稀ではなく(文献6),かつ患者の日常生活や社会生活を大きく阻害する重要な疾患である.このためWHOでは,強迫性障害を生活上の機能障害をひきおこす10大疾患の一つにあげている.
強迫性障害への非観血的治療としては,抗不安薬や抗うつ薬(SSRIなど)の投与,認知行動療法などの精神療法,経頭蓋磁気刺激などが行われているが(文献7),40-60%のケースでは十分な効果が得られない(文献8).非観血的な治療で十分な効果が得られない症例に対しては,内包前脚をターゲットとした種々の脳外科的治療(内包前脚切裁術や脳深部電気刺激[DBS])が行われている(文献3).強迫性障害に対する内包前脚切裁術の中で,SRSによる凝固巣作成はその低侵襲性の故に次第に普及しているが,その効果についての評価は必ずしも定まっていない.
本研究は11報告180例(平均追跡期間15.8±2.8[SD]年)のメタアナリシスである.その結果,エール・ブラウン強迫性障害スコア(Y-BOCS)は手術後に有意に低下(改善)し,同スコアは手術後の時間経過とともに低下した(R2 =0.29,p =.046).また,ベック抑うつ自己評価質問表(BDI)スコアは,手術前後でのペアのデータがそろっていた27症例の解析では有意に改善していた.
気になるのは,手術後の有害事象であるが,頭痛15.4%,体重変化(主として増加)14.1%,気分の変化9.4%,うつや不安の悪化8.1%,無気力8.1%が認められた.頭痛の多くは一過性で,うつや不安の悪化が認められた症例でも1/3が一過性であったという.
著者らはこの結果を受けて,SRSによる内包前脚切裁術は強迫性障害に対する有効な治療法であり,その効果は他の手法による切裁術と同様であるとまとめている.
ただし,本研究で解析対象とした11個の研究報告の中で,RCTは1個に過ぎなかったことには注意が必要である(文献9).また,強迫性障害を含む精神疾患に対する定位的脳神経外科的治療に当たっては,安全性と患者の主体性を最重視することが求められることは言うまでもない(文献10).

執筆者: 

有田和徳