公開日:
2024年5月10日Epidemiology of moderate traumatic brain injury and factors associated with poor neurological outcome
Author:
Utsumi S et al.Affiliation:
Department of Emergency and Critical Care Medicine, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japanジャーナル名: | J Neurosurg. |
---|---|
発行年月: | 2024 Mar |
巻数: | Online ahead of print. |
開始ページ: |
【背景】
外傷性脳損傷(TBI)は受診時のGCSによって軽症(13–15),中等症(9–12),重症(3–8)に分けられる.このうち,軽症と重症に関してはその予後関連因子が詳しく検討されているが,中等症に関しての解析は少ない.本稿は日本外傷データバンク(JTDB)の登録症例から中等症TBI患者を抽出して,予後不良(退院時GOS:1-3)の因子を求めたものである.対象は2019年から3年間に登録された中等症TBIの成人1,638例(男性67%,年齢中央値73歳,外傷重症度スコア[ISS]中央値17点).主要な外傷機転は転倒・転落で62%であった.頭蓋内病変は硬膜下血腫と脳挫傷が最多で共に29%であった.
【結論】
15%が開頭手術を受けた.765例(47%)が予後不良で,215例(13%)が院内死亡した.多変量解析で,予後不良と相関したのは高齢(≥65)[調整オッズ比aOR:4.66],チャールソン併存疾患指数(CCI)[aOR:1.27],GCS9点と10点[aOR:1.50と1.37],外傷重症度スコア(ISS)>15[aOR:1.93],人工呼吸の必要[aOR:1.76],開頭手術[aOR:1.57]であった.予後不良と逆相関したのはトラネキサム酸の使用[aOR:0.74]とICUへの入室[aOR:0.69]であった.トラネキサム酸の使用は死亡とも逆相関した[aOR:0.74].
【評価】
本研究で対象となった中等症TBIはTBI全体の約20%を占め,死亡率は10%を超え,生存しても多くは障害が残るとされる(文献1).中等症TBIの疫学と予後推定因子に関する研究は過去に1報しかなく,これもGOSに基づく予後判定ではなく,また予後に相関する因子の網羅的検討ではない(文献2).
本研究は,本邦における外傷症例の登録事業であるJTDBのデータベースから中等症TBI症例1,638例(117病院)を抽出して,背景因子の包括的な解析によって,予後不良(退院時GOS1-3)に寄与する因子を求めたものである.
この結果,死亡13%を含んだ予後不良患者の割合は47%と高く,逆に予後良好すなわちGOS:5(low disability)は31%に過ぎなかった.中等症TBIの予後が不良であるという従来の報告を裏付けた形になっている(文献2,3).
また,多変量解析の結果,予後不良と相関する因子として高齢(≥65),高いCCI,GCS9点,GCS10点,ISS >15,人工呼吸,開頭手術が抽出された.抗血栓剤(抗凝固剤や抗血小板剤)投与中の患者や低血圧を呈した患者では,数値上は予後不良が多かったが有意差ではなかった.
一方,予後不良と逆相関したのはトラネキサム酸の使用とICUへの入室であった.トラネキサム酸の使用は死亡とも逆相関した.TBI患者に対するトラネキサム酸投与が死亡率を低減することは国際的多施設研究(CRASH-3試験)で既に明らかにされているが(文献4),中等症TBIを対象とした本研究でも同剤の投与が機能予後不良ならびに死亡率を低減する可能性を示したことになる.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Godoy DA, et al. Moderate traumatic brain injury: the grey zone of neurotrauma. Neurocrit Care. 25(2): 306-319, 2016
- 2) Watanitanon A, et al. Clinical epidemiology of adults with moderate traumatic brain injury. Crit Care Med. 46(5): 781-787, 2018
- 3) Lund SB, et al. Moderate traumatic brain injury, acute phase course and deviations in physiological variables: an observational study. Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 24: 77, 2016
- 4) CRASH-3 trial collaborators. Effects of tranexamic acid on death, disability, vascular occlusive events and other morbidities in patients with acute traumatic brain injury (CRASH-3): a randomised, placebo-controlled trial. Lancet. 394(10210): 1713-1723, 2019
参考サマリー
- 1) ノルアドレナリン阻害薬で脳のグリンパティック機能を回復させれば頭部外傷後脳浮腫を抑制出来る:Nature
- 2) 頭部外傷患者におけるGFAP,UCH-L1血中濃度と予後との関係:米国TRACK-TBIコホート1,696例の検討
- 3) 80歳以上の高齢者に対する頭部外傷手術の意義:米国外傷データバンク127,129例の解析から
- 4) 重症の単独性頭部外傷に対するトラネキサム酸の病院前投与は30日死亡率を高める
- 5) なぜ重症頭部外傷にオメガ3脂肪酸サプリか?:大規模試験の提案
- 6) 血中GFAPはCT陰性,MRI陽性の頭部外傷を予測出来る
- 7) 頭部外傷に対する予防的早期低体温療法も無効:446例のRCT(POLAR)
- 8) 減圧開頭術前後の脳組織酸素分圧の変化は重症頭部外傷患者の予後を予想し得るか
- 9) 頭部外傷患者にエリスロポエチンが有効:メタ解析の結果
- 10) 抗血小板剤内服が床レベルでの転倒による頭部打撲に与える影響:救急外来受診者1,938例の検討