脳アミロイド血管症による脳葉内出血の血腫除去術はそんなに怖くはない、でも−−−:738例のシステマティック・レビュー

公開日:

2024年5月10日  

Surgical intervention for cerebral amyloid angiopathy-related lobar intracerebral hemorrhage: a systematic review

Author:

de Bruin OF  et al.

Affiliation:

Departments of Neurology, Radiology, and Neurosurgery, Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:38579346]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳アミロイド血管症(CAA)は脳内出血の19–24%,脳葉内出血の50–57%を占める(文献1).CAA関連脳内出血はnon-CAA脳出血に比較して年間再発率が高い(7.4 vs 1.1%)(文献2,3).
CAA関連脳出血が高齢者に多いこと,術中出血や術後早期再出血例が多いことから,血腫除去手術の役割については懐疑論も多い(文献1,4,5).ライデン大学脳神経内科などのチームは,過去の19個の報告に含まれる738例(平均年齢70歳)をレビューしてCAA関連脳葉内出血に対する血腫除去術のリスクと意義を検討した.
なお,レビューの対象の19研究の全てがバイアスの可能性と不均質性をはらんでいた.

【結論】

術中の出血は0.6%(2例/352例)に認められ,2例とも反対側脳に生じていた.術後出血のプール推定値は24時間以内で13.0%(30/225),その後14日までで6.2%(3/437)であった.5個の研究における平均19ヵ月の追跡期間での再出血は全体で11%に認められた.
手術後の転帰は一般に不良で,発症3ヵ月までの死亡率は19%であった.機能予後良好(GOS >3 and/or mRS ≤3)の症例は23%に過ぎなかった.機能予後不良と相関したのは高年齢,入院時状態の不良,脳葉内出血発症前の認知症の存在,脳葉内出血と同時に認められた脳室内出血,くも膜下出血,硬膜下出血の合併であった.

【評価】

CAA関連脳葉内出血に対する血腫除去手術に関するこのシステマティック・レビューでは,以前に報告されていたような術中出血は稀で,手術と反対側に出血が生じていた2例(0.6%)のみであった.術後早期(24時間以内)の再出血率は13%であったが,これは最近報告されている脳内出血全体の術後早期の再出血率13%と同一である(文献6).
従来,CAA関連脳内出血における術中出血,止血の困難さ,術後早期の出血の原因としては,出血した血管が収縮しにくいことや血管壁の脆弱さが示唆されていた(文献7).本研究ではこうした原因によって術中出血や術後早期の再出血が起こりやすいという可能性は否定されたことになる.
一方,本研究では,出血に直接関連する合併症が少ないにもかかわらず,発症3ヵ月までの死亡率は19%と高く,機能予後は一般に悪く,機能予後良好の患者(GOS >3 and/or mRS ≤3)は23%と1/4に満たなかった.
脳葉内出血に対する血腫除去手術が保存的治療と比較して機能予後の改善をもたらさないことは,2013年発表の英国でのRCT(STICH II)で報告されているので(文献8)驚くにはあたらない.しかし,2024年4月に発表された米国ENRICH試験では,経脳溝傍神経線維束法(MIPS)を用いた低侵襲的血腫除去は脳葉内出血患者の機能予後を改善するという結果が得られている(文献9).本研究では,予後不良と相関したのは高年齢,入院時状態の不良,脳葉内出血発症前の認知症,同時に認められた脳室内出血,くも膜下出血,硬膜下出血であった.こうした症例を除外した上で,CAA関連脳葉内出血に対して,MIPSやMISTIE(文献10)などの低侵襲的血腫除去手術を行えば,機能予後の改善が得られるかもしれない.

執筆者: 

有田和徳