血栓回収治療はどんな大きさの急性期脳梗塞にも有効:フランスとスペインでのLASTE試験

公開日:

2024年5月22日  

最終更新日:

2024年5月27日

Trial of Thrombectomy for Stroke with a Large Infarct of Unrestricted Size

Author:

Costalat V  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Hôpital Gui de Chauliac, Montpellier, France

⇒ PubMedで読む[PMID:38718358]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2024 May
巻数:390(18)
開始ページ:1677

【背景】

大きな急性期脳梗塞に対する血栓回収術の有効性は未だ確立してはいない.本LASTE試験は,フランス24施設とスペイン6施設で実施されたRCTである.対象は梗塞巣ASPECTS ≤5の急性期前方循環領域脳梗塞患者で発症後6.5時間以内にランダム化が可能な333例.166例を血栓回収群,167例を対照(薬物治療単独)群に割り付けた.梗塞巣のサイズには制限を設けず,ASPECTS ≤2の割合は56%であった.両群とも約35%の患者が経静脈的な血栓溶解療法を受けていた.本試験は,いくつかの先行研究で大梗塞に対する血栓回収の有効性が示唆されたため(文献1,2,3),試験期間の途中で患者登録が中止となった.

【結論】

主要アウトカムの発症90日目のmRSは血栓回収群で機能予後良好な方にシフトしており,その中央値は血栓回収群で4,対照群で6であった(全般化オッズ比:1.63;95%CI:1.29-2.06;p <.001).発症90日目の機能予後良好(mRS:0-2)の頻度は血栓回収群で13.3%,対照群で4.9%であった(調整相対リスク:2.39).発症90日までの全死亡は血栓回収群で36.1%,対照群で55.5%であった(調整相対リスク:0.65).症候性頭蓋内出血の頻度は血栓回収群で9.6%,対照群で5.7%であった(調整相対リスク:1.73,有意差なし).血栓回収群のうち11例(6.9%)で治療関連合併症が生じた.

【評価】

ASPECTS ≤5の急性期前方循環領域脳梗塞に対する血栓回収治療の有効性に関しては日本のRESCUE-Japan LIMITを含めたいくつかの大規模試験の報告がある(文献1,2,3,4).
本LASTE試験の特徴は梗塞巣の大きさ(ASPECTS)に制限を設けずに患者登録を行った点にある.その結果,56%の患者がASPECTS ≤2であり,梗塞巣の体積中央値は135 mLであった.全症例を対象とした発症90日目のmRSの評価では血栓回収群が有意に良好であったが(全般化オッズ比:1.63;95%CI:1.29-2.06;p <.001),ASPECTS ≤2以下の症例に限っても発症90日目mRSは血栓回収群で良好であった(全般化オッズ比:1.77;95%CI:1.30–2.41).ただし,LASTE試験でもASPECT ≤3の大梗塞を有する80歳を超える高齢者は除外されていることには注意が必要である.
一方,従来のASPECTS ≤5の急性期前方循環領域脳梗塞に対する血栓回収治療に関する試験(RESCUE-Japan LIMIT,SELECT2,TENSION)では,ASPECTS 2点以下あるいは3点以下の大梗塞では,血栓回収治療の優越性は認められていない(文献1,2,4,5).
本LASTE試験結果との差異に関しては,今後,詳細な解析が必要であろう.

<コメント>
Large ischemic coreに対する血栓回収術の有効性を検証するRCTはRESCUE-Japan LIMITを皮切りに,ANGEL ASPECT,SELECT2,TENSION,TELSAがこれまで報告されており,ASPECT 3-5に対する血栓回収術の有効性が示されている.今後のメタ解析の結果に注目したい.本研究LASTEは更にASPECTS 2点以下の症例に対する血栓回収術の有効性が示されている.本研究が既報と大きく異なる点としてinclusion criteriaのtime to randomizationが6.5時間以内と圧倒的に短い.他の殆どのRCTは24時間以内であり,ASPECTSには反映されない虚血深度が影響している可能性がある.年齢においてもRCT間で差があり,高齢者をどれだけinclusionしているかも影響するものと考える.本研究でもASPECT 3以下の80歳以上は除外されている.年齢による虚血耐性や可塑性についてはmRSに大きく影響する可能性があり,ASPECTSだけでなく,虚血深度,発症からの時間や年齢なども含めて今後の解析が必要であろう.International Stroke Conference 2024(Phoenix, AZ, USA)においてLASTEの成績発表を拝聴したが,我々が従来より考えているcore(中心),penumbra(周辺)の概念ではなく,双方がheterogeneityを構成していると強調していた点は興味深かった.(広島大学脳神経外科 堀江信貴)

執筆者: 

有田和徳