頭蓋内動脈の動脈硬化性閉塞・狭窄に対する直接+間接のローフロー・バイパス手術の有効性:ソウル大学の215例

公開日:

2024年5月23日  

最終更新日:

2024年5月24日

Surgical Outcomes of Low-Flow Bypass Surgery in Intracranial Atherosclerotic Steno-Occlusive Diseases

Author:

Chung Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Seoul National University Hospital, Seoul National University College of Medicine, Seoul, Republic of Korea

⇒ PubMedで読む[PMID:38690884]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

血行力学的脳虚血を示す頭蓋内動脈閉塞に対するEC-ICバイパスは理論上は脳梗塞再発予防に有用な筈であるが(文献1),過去のRCTはその有効性を示していない(文献2,3,4).これら先行研究に対しては選択バイアスやバイパス手術群における周術期合併症率の高さなどが問題点として挙げられている.本稿は過去20年間にソウル大学で頭蓋内動脈の動脈硬化性閉塞・狭窄病変に対してローフロー・バイパスを受けた215例(平均59.1歳)の後方視的解析である.罹患動脈は中大脳動脈31.6%,内頚動脈66.5%で,閉塞87.9%,狭窄12.1%であった.初発臨床像は脳梗塞68.4%,一過性脳虚血発作54.0%であった.

【結論】

手術方法は直接バイパス20.5%,直接+間接バイパス79.5%であった.
平均54.6ヵ月の追跡期間における全脳卒中,脳梗塞,頭蓋内出血の発症率は12.1%,9.8%,2.3%であった.全ての脳卒中のうち84.6%は術後30日以内に発症した.2年間と5年間の全脳卒中の発生リスクは共に12.1%であった.mRS平均スコアは術前1.6,最終追跡時0.8であった.直接バイパス血管の開存率は退院直前(バイパス術後)99.1%,平均27ヵ月後の最終血管撮影時96.3%であった.術後平均39ヵ月後の99mTc-HMPAOを用いた脳SPECT検査(190件)では,全例がアセタゾラミド負荷時の脳血行動態の改善を示した.

【評価】

本研究は,対照を設定しないシングル・アームの後方視研究であり,エビデンスレベルは低い.にも関わらず,著者らが敢えてその結果を発表したのは,過去最大の症例数であること,平均54.6ヵ月の追跡期間の全脳卒中,脳梗塞,頭蓋内出血の発症率が12.1%,9.8%,2.3%と低く,また最終追跡までのバイパス血管の開存率が96.3%と高かったことによるのであろう.
既報のRCTのうちEC-IC bypass試験では平均55.8ヵ月における全脳卒中の再発率はバイパス群31%,保存的治療群29%であった(文献2).COSS研究では2年間の追跡期間における全脳卒中の再発率はバイパス群21.0%,保存的治療群22.7%であった(文献3).
頭蓋内主幹動脈狭窄に対するステント術の有効性を検討したSAMMPRIS試験では,登録後2年間における脳卒中か死亡の複合エンドポイントは薬物療法群で14.6%,血管内治療群(ステント群)で20.6%であった(文献5).最近のオックスフォードシャー州における住民ベースのOXVASC研究では,頭蓋内動脈の症候性狭窄(50~99%)に対する薬物療法を受けた84例における全脳卒中再発率は中央値2.8年の追跡期間内で14.9%であった(文献6).
本研究(ソウル大学のローフロー・バイパス症例)はこれらの報告とは対象選択基準が異なるが,脳卒中再発率は従来報告の薬物療法群ならびに手術群のいずれより低い.
本研究における良好な結果の背景には,バイパス手術の対象を術前のSPECTにおける50%以上の安静時脳血流量の低下と予備能低下の症例に限ったこと,著者らのチームの高い手術技量,さらに約8割の症例で直接バイパスに加えて間接バイパス手技が加えられたことによるのかも知れない.
間接血行再建は,もやもや病においては確立された血行再建の手法であるが(文献7,8),最近では頭蓋内動脈の動脈硬化性閉塞・狭窄病変に対する血行再建手技としての有効性が報告されている(文献9).本研究でも,手術後36.1%の症例で何らかの間接血流が認められている.
今後,頭蓋内動脈の動脈硬化性閉塞・狭窄病変に対するローフロー・バイパスの有効性については,厳密な基準による患者選択を前提に,間接血行再建を含めて,高い技量の術者・施設において実施されるRCTで判定される必要性がありそうである.

執筆者: 

有田和徳

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