頭部外傷後の外減圧症例では頭蓋形成をいつ行うべきか:欧州外傷性脳損傷登録から

公開日:

2024年6月18日  

Early versus delayed cranioplasty after decompressive craniectomy in traumatic brain injury: a multicenter observational study within CENTER-TBI and Net-QuRe

Author:

Vreeburg RJG  et al.

Affiliation:

University Neurosurgical Center Holland, Leiden University Medical Center, Haaglanden Medical Center and Haga Teaching Hospital, Leiden and The Hague, The Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:38669706]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

外傷性脳損傷時の脳腫脹・頭蓋内圧亢進に対する外減圧術の有効性は良く知られているところであるが(文献1,2,3),では頭蓋形成のタイミングはいつが良いのか.ライデン大学Vreeburgらは,欧州外傷性脳損傷共同研究(CENTER-TBI)とオランダ神経外傷品質登録(Net-QuRe)に2014年から2020年に前向き登録された5,091症例から,外減圧が実施されその後頭蓋形成術が行われた173症例を抽出して,後方視的に検討した.73例(42%)は外減圧後90日以内に(早期),100例(58%)は90日を超えて(晩期)頭蓋形成術が行われた.

【結論】

外減圧後12ヵ月のGOS-Eスコアは早期頭蓋形成群と晩期頭蓋形成群で,通常の多変量解析でも傾向スコアマッチングによる解析でも差がなかった(調整オッズ比は0.87,95% CI 0.61–1.21と0.88,95% CI 0.48–1.65).
通常のロジスティック回帰解析では,早期頭蓋形成群は晩期頭蓋形成群と比較して,水頭症のリスクが高かった(9例[12%] vs 4例[4%],調整オッズ比 4.0,95% CI 1.2–16). 
退院後のけいれんの頻度や頭部外傷後の主観的QOLスコア(QOLIBRI)は2群間で差はなかった.

【評価】

外減圧手術は頭部外傷後の脳腫脹・頭蓋内圧亢進に対する有効な治療法として確立している(文献1,2,3).しかし,その後の頭蓋形成術をいつ行うべきかについては十分な合意は得られていない.外減圧部の皮膚の沈下による脳機能低下(sinking skin flap syndromeあるいはsyndrome of the trephined)を避ける意味で早期の頭蓋形成を行うべきとする主張もあるが(文献4),早期の頭蓋形成は感染や水頭症の発生リスクが高いとの理由から早期の頭蓋形成は避けるべきとの主張もある(文献5).
CENTER-TBIとNet-QuReは頭部外傷に対する有効な治療法を探るために2014年に開始された欧州における前向き登録事業である.既にこれらの研究からは,多数の優れた論文が出版されている(文献6,7,8).
本論文はCENTER-TBIとNet-QuReから抽出した173症例を対象とした,外減圧後の頭蓋形成術の至適タイミングに関する検討結果である.その結果,機能予後やQOLに関しては早期頭蓋形成群と晩期頭蓋形成群の間に差はなかった.この結果を受けて著者らは,外減圧後の頭蓋形成術は最初の入院期間中に実施することを考慮して良いであろう,しかし水頭症の発症リスクについては十分に注意を払う必要性があるとまとめている.
早期の頭蓋形成術と水頭症との相関については最近の大規模な後方視研究(文献5)やメタアナリシスでも指摘されている(文献9).この理由については,本稿の著者らも明示してはいない.今後の検討を待ちたい.

執筆者: 

有田和徳