歯原性脳膿瘍の頻度と臨床像:フライブルク大学における217例

公開日:

2024年8月26日  

Undetected permanent dental inflammation as a possible trigger for brain abscesses? A retrospective analysis over the last 2 decades

Author:

Olivier M  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Medical Center-University of Freiburg, Freiburg, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:39085702]

ジャーナル名:Acta Neurochir (Wien).
発行年月:2024 Jul
巻数:166(1)
開始ページ:313

【背景】

脳膿瘍は,年間発生頻度0.4–0.8/10万人で,現在でも致死率20%に達する重要な疾患である(文献1,2).発症機序としては,隣接感染巣からの直接進展,外傷・手術後の発症,遠隔感染巣からの血行性播種などが挙げられるが,近年歯原性脳膿瘍の頻度が増えているとの報告がある(文献1,3).フライブルク大学脳外科は過去20年間に治療した脳膿瘍217例を解析して,歯原性脳膿瘍の頻度と臨床像を解析した.
歯性感染症以外には脳膿瘍の原因病巣が見当たらず,検出された脳膿瘍起炎菌のスペクトラムが歯性の細菌スペクトラムと一致するものを歯原性脳膿瘍と診断した.その結果,26例(12.0%)が歯原性脳膿瘍と診断された.

【結論】

26例中11例(42%)は免疫抑制状態(悪性腫瘍,自己免疫疾患,糖尿病,免疫抑制剤内服)の患者であった.口腔内感染巣は18例(69%)で認められた.21例(81%)では,起炎菌はStreptococcus anginosusグループであった.起炎菌特異的治療としてはメトロニダゾール(54%)やセフトリアキソン(42%)が使用された.抗生剤投与期間は平均8.0週(SD:6.1週).全例で脳膿瘍に対する手術(開頭術18例,バーホール・ドレナージ7例,定位的ドレナージ1例)が施行された.17例中14例で抜歯が行われた.18例(72%)では,神経症状の部分-完全消失が得られた.3例は死亡した.

【評価】

本研究は,脳膿瘍全体における歯原性脳膿瘍の頻度と臨床像を求めたものである.歯原性脳膿瘍の定義としては,歯性感染症の可能性以外には脳膿瘍の原因病巣が認められず,検出された脳膿瘍起炎菌のスペクトラムが歯性細菌スペクトラムと一致したものとしている.この定義によれば,歯原性脳膿瘍は全脳膿瘍217例中の約1割,12.0%(26例)を占めたという.この頻度はデンマークにおける2007年から2014年までの全国調査の結果(19%,文献1),ボストンMGHでの過去約40年間の症例の後方視研究の結果(13.6%,文献3)とほぼ一致している.
しかし,これら歯原性脳膿瘍患者のうち,脳膿瘍発症前に抜歯などの目的で歯科受診歴があったのは5例(19.2%)のみであったという.一方,脳膿瘍発症後に口腔外科での検査を行った22例中では18例(8.3%)に歯性感染症が判明し,歯原性脳膿瘍が確定した.さらに,このうち14例(78%)では治療を要する歯牙歯槽の感染性疾患が認められた.すなわち,脳膿瘍の原因となるべき歯性感染症の多くは,治療が必要にもかかわらず,診断・治療を受けていなかったことになる.
また,本研究において,歯原性脳膿瘍患者の約半数は悪性腫瘍,自己免疫疾患,糖尿病,免疫抑制剤内服中といった免疫抑制状態の宿主であったことも重要な指摘である.
本研究は,他の原因に基づく脳膿瘍との臨床像の比較がないのは大きな欠点ではあるが,脳膿瘍の診断・治療にあたって見落としてはならない歯性感染症についての全体像を呈示しており,脳外科臨床医にとって重要な報告と思われる.
歯性感染症は脳膿瘍のみならず,頭頚部の動脈硬化性疾患の背景因子としても注目されており,今後その予防における意義が明らかになることも期待したい.

執筆者: 

有田和徳