フローダイバーターでカバーされた側枝動脈の血流はどうなるのか:定量的DSAによる評価

公開日:

2024年11月29日  

Quantitative Analysis of Hemodynamic Changes in Branch Arteries Covered by Flow Diverters

Author:

You W  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital and Beijing Neurosurgical Institute, Capital Medical University, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:38819159]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

動脈瘤をフローダイバーター(FD)で治療した場合に,母動脈の側枝動脈の血流がどう変化するかについての定量的評価の報告は少ない.北京天壇病院脳外科は,FDで治療した71動脈瘤89側枝(眼動脈68個,後交通動脈11個,前脈絡叢動脈6個,前大脳動脈3個)の血流について,後方視的にDSAの定量的解析を行った.
側枝の関心領域は側枝動脈の分岐部から1 cm末梢側に設定した.この点における造影剤到達からの時間-濃度曲線を描き,TTP(ピーク到達時間),MTT(平均通過時間),FWHM(半値幅,full width at half maximum)を算出した.フローダイバージョン前と後でこれらの指標を比較した.

【結論】

全例では,FDでカバーされた側枝動脈のMTTとFWHMはFD後に有意に延長した(p =.004,p =.023).側枝動脈の血流障害(狭窄あるいは閉塞)は11.2%(10/89)で認められた.
血流障害が認められた側枝ではFD後のTTP,FWHM,MTTがFD前より有意に短縮した(短縮率32.8%,32.6%,29%,p =.006,p =.002,p =.002).多変量解析では,FD後の側枝動脈の血流障害(狭窄あるいは閉塞)の独立した予測因子は側枝動脈のFWHMの短縮(オッズ比0.97,p =.007)と喫煙(オッズ比14.5,p =.026)であった.

【評価】

従来,フローダイバーター(FD)でカバーされた内頚動脈の側枝動脈毎の閉塞率と虚血症状発症率は,眼動脈:0-17%と<1%,後交通動脈:7-50%と0%,前脈絡叢動脈:0-5%と<1%と報告されている.眼動脈や後交通動脈瘤と比較して前脈絡叢動脈の閉塞率は低く,またいずれの動脈の虚血症状も発症率は低かった.本研究シリーズでは,全側枝動脈の閉塞率は5.6%,狭窄率は5.6%,虚血症状発症率は0%であった.また各側枝動脈毎の閉塞率は,眼動脈5.9%,後交通動脈9.1%,前脈絡叢動脈0%であった.著者らはこの閉塞率の違いは側枝動脈毎の側副血行の差によるもので(文献1,2),側副血行が無く終末動脈になっている前脈絡叢動脈では閉塞は少ないと推測している.
本研究は,FDでカバーされた側枝動脈の血行動態を時間-濃度曲線のパラメーター(TTP,MTT,FWHM,AUC[area under the curve],SI[stasis index])を用いて解析したものである.その結果,FDでカバーされた側枝動脈のMTTとFWHMはFD後に有意に延長していた.このことはFDが側枝動脈の血流速度の低下をもたらすことを示している.これは当然予想された結果であり,過去の臨床例あるいは動物実験でも同様の傾向が示されている(文献3,4,5).
一方,FD後も開通している側枝動脈と比較して,FD後に血流障害(狭窄や閉塞)を来した側枝動脈では,FD後にTTP,FWHM,MTTが短縮していたが,これは側枝動脈内の血流速度が上昇していたことを示している.この機序については,著者らは,FD後の血行動態の変化が,側枝動脈内皮の反応や動脈リモデリングをもたらし,結果として血流障害につながるのであろうと推測している.
本研究で示唆された,DSAの定量的パラメーターがFD後の側枝動脈の狭窄や閉塞を予測し得るツールになるかどうかは,今後の前向き研究で検証されなければならない.
また,本研究シリーズでは,FWHMの短縮とならんで喫煙が側枝動脈の血流障害(狭窄や閉塞)の独立した予測因子であった.Cagnazzoらも2018年に,76例のFD症例の解析で,喫煙が側枝動脈の血流障害の独立した予測因子であることを報告している(文献6).喫煙者に対するFD後ではより注意深い経過観察が必要と思われる.

執筆者: 

有田和徳