頭蓋内胚腫治療後長期追跡例におけるマイクロブリーズの意義:東北大学の64例

公開日:

2024年12月15日  

Clinical significance of cerebral microbleeds in patients with germinoma who underwent long-term follow-up

Author:

Kanamori M  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Tohoku University, Graduate School of Medicine, Sendai, Japan

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ジャーナル名:J Neurooncol.
発行年月:2024 Oct
巻数:170(1)
開始ページ:173

【背景】

小児の脳腫瘍治療後にT2*-あるいはSWI-MRIで脳マイクロブリーズ(CMB)が見られることがあるが,その意義は十分には判っていない(文献1,2,3).東北大学脳外科は,同施設での頭蓋内胚腫治療後に外来通院している107例のうち,本研究への同意が得られた64例(男性52例)を対象に3T-MRIでSWI像を得て,CMBの数や部位と脳萎縮,知能,記銘力などの関係を解析した.初診時年齢は中央値15歳(7-37)で,追跡期間は中央値175.5ヵ月(32-412)であった.放射線放射の範囲は全脳/全脊髄58%,全脳室30%,局所13%であった.プラチナ・ベースの化学療法が70%で実施されていた.

【結論】

43例(67%)が509個のCMBを示し,21例ではCMBはなかった.CMBの数と追跡期間には弱い相関があった(R =0.46).腫瘍の再発(再照射が必要)はCMB発生のリスク因子であった(p =.0049).側頭葉CMBの数は情報処理速度や視覚記憶に負の影響を与える傾向であった(p <.10).脳葉CMBの数が多い症例では脳萎縮が強かった(p =.037).脳萎縮は言語,視覚,そして全般的な記憶に有意の影響を与え,情報処理速度を低下させる傾向にあった.経過観察中に4人が8回の脳卒中を起こした.これらの4人全員が,脳卒中前に15個以上のCMBを有していた.一方,CMBが14個以下かゼロの症例では脳卒中の発生はなかった.

【評価】

本研究は,東北大学脳外科で1983年から2019年に治療を行い,経過観察(治療後中央値175.5ヵ月)しているpure germinomaあるいはgerminoma with STGCの患者64例を対象に,3T-MRIを用いたSWI撮像法で捉えられるCMB(2-10 mm)と脳萎縮,認知機能,脳血管障害などとの関係を解析したものである.
その結果,本研究対象全体では67%にCMBが認められ,33%では認められなかったが,CMBが認められなかった症例の85.7%が,プラチナベースの化学療法の実施と併せて低線量の全脳室あるいは全脳照射が行われた症例であった.また,CMBの数と追跡期間には緩やかな相関があり,腫瘍の再発(9例,このうち8例で再照射が行われた)はCMB発生のリスク因子であった.側頭葉CMBの数は情報処理速度や視覚記憶に負の影響を与える傾向であった.脳葉CMBの数が多い症例では脳萎縮が強かった.さらに,治療後の追跡期間中の脳卒中の発生(4例,8回)は,脳卒中前に15個以上のCMBを有した患者に限定されていた.
著者らは,本研究をまとめて,頭蓋内胚腫治療後のCMBの数は治療後の追跡期間とともに増加し,再発はCMBの増加因子であり,全脳室系への低線量照射はCMBを減少させる可能性がある.記銘力の低下は,CMBよりは脳萎縮と相関する.CMBの増加は長期追跡時の脳卒中のリスクを増大させる可能性があるとまとめている.
頭蓋内胚腫に対する放射線治療後の患者の生存期間が延長するにつれて,今後更にCMBは増加するものと思われる.そのような患者では,従来から指摘されている二次癌発生のリスクと並んで,脳血管障害や認知機能低下を予測して丁寧な経過観察と適切な対処が必要であろう.

執筆者: 

有田和徳