公開日:
2024年12月15日Procedural volume is linearly associated with mortality, major complications, and readmissions in patients undergoing malignant brain tumor resection
Author:
Han JS et al.Affiliation:
Department of Neurological Surgery, Keck School of Medicine, University of Southern California, Los Angeles, CA, USAジャーナル名: | J Neurooncol. |
---|---|
発行年月: | 2024 Nov |
巻数: | 170(2) |
開始ページ: | 437 |
【背景】
施設毎の脳腫瘍に対する年間手術数が手術成績と相関するという報告はいくつかあるが(文献1,2,3,4),手術数が単純に二分されているだけであったため,詳細な統計学的評価は困難であった.USCケック病院脳外科のHanらは,米国再入院データベース(NRD)より,2016年からの3年間に実施された悪性脳腫瘍の手術34,486件を抽出して,病院毎の年間手術件数が手術死亡,合併症,予定外再入院に与える影響を多変量線形解析した.年間手術件数毎の総手術件数の内訳は1-2例:2%,3-6例:6%,7-16例:17%,17-349例:75%.各群における教育機関病院の手術件数の割合は48%,37%,24%,4%であった.
【結論】
悪性脳腫瘍の年間手術数が1-65件の病院では,一件増える毎に手術死亡の頻度はOR:0.988で低下した(p <.0001).
同1-41件の病院では,一件増える毎に手術による主要な合併症の頻度はOR:0.983で低下した(p <.0001).
同1-24件の病院では,一件増える毎に手術後30日以内の予定外再入院の頻度はOR:0.987で低下した(p =.001).
同1-23件の病院では,一件増える毎に手術後90日以内の予定外再入院の頻度はOR:0.989で低下した(p =.0003).
同24-349件の病院では,一件増える毎に手術後90日以内の予定外再入院の頻度はOR:0.9994で低下した(p =.01).
【評価】
本研究は,米国再入院データベース(Nationwide Readmissions Database:NRD)に登録された悪性脳腫瘍に対する手術34,486件を対象に,施設毎の悪性脳腫瘍の年間手術数と手術合併症や再入院率の関係を検討したものである.Elixhauser併存疾患インデックスは各群間で差はなかった.その結果,施設毎の悪性脳腫瘍の年間手術数と,手術死亡,主要な合併症,30日/90日の予定外再入院の頻度は直線的にマイナス相関することを示した.当然,そうだよねという結果である.“practice makes perfect”の言葉通りである.また,ハイボリュームセンターに比較してローボリュームセンターではNon-elective surgeryが多く,7割近くに達していたということもこの結果に反映されているものと思われる.
施設毎の手術件数と手術効果や安全性との連続的相関は,脳外科の他の疾患(くも膜下出血や経蝶形骨洞手術)でも認められている(文献5,6,7,8).
ただし,この相関にはカットオフがあり,例えば悪性脳腫瘍手術後の主要な合併症の頻度には,年間手術数41件以下では手術数と連続的なマイナス相関があったが,それを超えるとその相関が弱くなっていた.すなわち,手術合併症だけの観点から見ると,毎年ある程度の手術を実施している病院であれば安心だが,膨大な数の手術を行っている施設=スーパー・ハイボリュームセンターである必要性はないということになるのかも知れない.
同様に,手術件数の増大が手術の成功率と安全性の向上にもたらす効果における“頭打ち現象”は,くも膜下出血に対する施設毎の手術件数でも認められているという(例えば年間35件以上では数の効果は減弱する)(文献7,8).スーパー・ハイボリュームセンターであるということは,症例が複数の術者に分散していたり,若い術者にトレーニングさせたりする機会も多いであろう.またスーパー・ハイボリュームセンターには難しい症例が集中することもあり得る.さらには,こうした病院では施設やスタッフの許容量を超えた手術数が実施されている可能性も否定はできない.こうした複数の要因が,この“頭打ち現象”の背景にあるのであろう.
一方,本研究では,手術の安全性に焦点が向けられているが,年間手術数と手術の効果(例えば摘出率)との関係はどうなのか,気になるところである.
興味深いのは,本研究対象の約3.5万件の悪性脳腫瘍に対する手術のうち,約10%だけが教育機関病院(大学附属病院等)での手術であることで,悪性脳腫瘍の手術の過半が教育機関病院で行われている日本とは好対照である.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Barker FG, et al. Surgery for primary supratentorial brain tumors in the United States, 1988 to 2000: the effect of provider caseload and centralization of care. Neuro Oncol 7(1):49–63, 2005
- 2) Zhu P, et al. Improved survival of glioblastoma patients treated at academic and high-volume facilities: a hospital-based study from the national cancer database. J Neurosurg 132(2):491–502, 2019
- 3) Nuño M, et al. The effect of centralization of caseload for primary brain tumor surgeries: trends from 2001–2007. Acta Neurochir 154(8):1343–1350, 2012
- 4) Trinh VT, et al. Surgery for primary supratentorial brain tumors in the United States, 2000–2009: effect of provider and hospital caseload on complication rates. J Neurosurg 122(2):280–296, 2015
- 5) Prabhakaran S, et al. Hospital case volume is associated with mortality in patients hospitalized with subarachnoid hemorrhage. Neurosurgery 75(5):500–508, 2014
- 6) Pandey AS, et al. High subarachnoid hemorrhage patient volume associated with lower mortality and better outcomes. Neurosurgery 77(3):462–470, 2015
- 7) Leifer D, et al. Association between hospital volumes and clinical outcomes for patients with nontraumatic subarachnoid hemorrhage. J Am Heart Assoc 10(15):e018373, 2021
- 8) Li D, et al. Transsphenoidal resection of pituitary tumors in the United States, 2009 to 2011: effects of hospital volume on postoperative complications. J Neurol Surg B Skull Base 82(2):175–181, 2021
参考サマリー
- 1) 上前頭回後部腫瘍手術後の補足運動野症候群の出現頻度と持続期間は?:Mayoクリニックの106例
- 2) エロクエント皮質領域のグリオーマには,本当に覚醒下腫瘍摘出手術が良いのか:15論文2,032例のシステマティック・レビュー
- 3) 覚醒下開頭手術が継続できなかった理由
- 4) 側頭葉神経膠腫に鍵穴手術
- 5) low grade gliomaに対する超全摘手術
- 6) 半側空間無視は右の弓状束後方成分の障害で起こる
- 7) 70歳以上の高齢者でも膠芽腫は生検より摘出を目指した方が良い:フランスANOCEF研究の101例
- 8) 優位半球の膠芽腫でも造影部分周囲のFLAIR高信号領域をできるだけ除去することが予後を改善させる:マイアミ大学の102例
- 9) ブローカ野を摘出してもブローカ失語は起こらない:UCSFにおける289例の定量的3次元解析から