脳主幹動脈急性閉塞に対するアルテプラーゼとテネクテプラーゼのRCT:日本のT-FLAVOR試験の218例

公開日:

2026年6月30日  

Standard-Dose Tenecteplase vs Low-Dose Alteplase for Acute Ischemic Stroke From Large-Vessel Occlusion: A Randomized Clinical Trial

Author:

Inoue M  et al.

Affiliation:

Department of Cerebrovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, Suita, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:42223935]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2026 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

テネクテプラーゼはアルテプラーゼの遺伝子改変型であり,フィブリン特異性が高く,血漿中半減期がより長く,PAI‑1による阻害に対する抵抗性が強い(文献1,2).静注血栓溶解療法においてもアルテプラーゼと比較して出血性合併症を増加させることなく,より良好な臨床転帰をもたらすことが報告されており,欧州や米国では臨床応用が進んでいる(文献3-7).
本稿は,日本における常用量(国際的には低用量)(0.6 mg/kg)のアルテプラーゼとテネクテプラーゼ(0.25 mg/kg)のRCTの結果である.
対象は,発症4.5時間以内の静注血栓溶解療法の適応があり,発症6時間以内に血栓回収療法を受けることが予定された急性脳主幹動脈閉塞患者.

【結論】

221例がランダム化され,実際にはテネクテプラーゼが107例,アルテプラーゼが111例に投与された.
主要評価項目である投与開始後の初回血管造影時の実質的再灌流(mTICIグレード2b-3,または回収可能な血栓を認めない)の頻度はテネクテプラーゼ群10.3%,低用量アルテプラーゼ群3.6%(絶対差6.5%,90% CI 0.89-12.1)で,事前規定成功基準を満たした.90日後mRSが良好方向にシフトする推定共通オッズ比は,テネクテプラーゼで1.47(95% CI 0.92-2.35)であった.症候性頭蓋内出血(2.8% vs 1.8%)および死亡率(6.5% vs 9.9%)は両群で同程度であった.

【評価】

テネクテプラーゼはアルテプラーゼの遺伝子改変型であるが,海外での臨床試験によれば,急性期脳主幹動脈閉塞に対する静注血栓溶解療法においてテネクテプラーゼはアルテプラーゼと同等の安全性で,アルテプラーゼと比較して脳主幹動脈の再開率が高く,より良好な臨床転帰をもたらすことが知られている.しかもテネクテプラーゼは単回静注(5秒程度)が可能で,血栓回収に向けたdrip & shipにとって有利になっており,欧州や米国では概ね標準治療になりつつある.
ちなみに,欧米ではテネクテプラーゼが心筋梗塞治療薬として先に承認され,それを背景に脳梗塞へのオフ・ラベル使用や承認につながった.一方日本では,テネクテプラーゼは心筋梗塞に対する治療薬としても承認されていない.その理由としては,心筋梗塞領域では,日本ではprimary PCIが早期に標準化し,血栓溶解薬としてのテネクテプラーゼを導入する臨床的・商業的インセンティブが小さかったことが挙げられる(文献8).
加えて脳梗塞領域では,日本独自の低用量アルテプラーゼ(0.6 mg/kg)が標準治療として定着していたため(文献2,9),欧米の0.9 mg/kgアルテプラーゼを対照としたRCTの結果をそのまま外挿しにくく,日本人での安全性確認と,アルテプラーゼ0.6 mg/kg投与群を対照とした国内試験が必要になった.本稿のT-FLAVOR試験は,そのような日本独自の状況を背景とした医師主導治験で,国立循環器病研究センター脳血管内科など全国18施設が参加し,2021年度に開始された.
本稿はその結果であるが,血栓回収療法前の標準用量テネクテプラーゼ(0.25 mg/kg)は,低用量アルテプラーゼ(0.6 mg/kg)と比較して早期の実質的再灌流率が高く,事前規定された成功基準を満たした.また,安全性は同程度であった.
一方,90日後機能転帰および72時間後早期神経学的改善を含む副次有効性評価項目は,テネクテプラーゼ群でアルテプラーゼ群より数値上良好であったが,統計学的有意差には達しなかった.ただし,mRSが良好方向にシフトする推定共通オッズ比は1.47(p =.11)で,早期神経学的改善は,テネクテプラーゼ群で67.3%,アルテプラーゼ群で55.9%に認められ,推定差は11.4%(p =.08)となっていた.著者らは,これらの副次有効性評価項目が有意差に達しなかった理由としては,血栓回収療法前再灌流の絶対率が低かったこと,サンプルサイズが中等度であったこと,これらの転帰は血栓回収療法の手技成功率および実施タイミングの影響を大きく受けるため,血栓溶解療法単独の効果を検出しにくくした可能性を指摘している.
以上,いくつかの制約はあるが,このT-FLAVOR試験の結果を見る限り,日本でのテネクテプラーゼの承認はかなり現実味を帯びてきたと思われる.

執筆者: 

有田和徳