脊髄空洞症を伴うキアリ1型奇形に対する手術では硬膜形成を行うべきか?:162例のRCT

公開日:

2026年6月30日  

Decompression with or without Duraplasty for Chiari I and Syringomyelia

Author:

Limbrick DD  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Virginia Commonwealth University School of Medicine, Richmond, Virginia, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:42202320]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2026 May
巻数:394(20)
開始ページ:2015

【背景】

キアリI型奇形と脊髄空洞症を有する小児では,C1後弓切除を含む後頭蓋窩減圧術(PFD)によって臨床症状の改善が得られる.しかし,硬膜を切開して硬膜グラフトを用いる硬膜形成術(D:dural plasty)をPFDに追加すること(PFD-D)が転帰を改善するかは明らかでない.本稿は米国の38施設で行われたRCTの結果である.対象は,21歳以下で小脳扁桃下垂が5 mm以上,かつ脊髄空洞の最大径が3.0-9.9 mmの患者162例.78例がPFD-D(硬膜形成グラフトの種類は問わない),84例がPFD単独(Dural splitting:硬膜外層だけの剥離や切除あるいは減張切開の追加は術者の判断に委ねられた)に割り付けられた.

【結論】

主要評価項目の6ヵ月以内の合併症はPFD-D群14%,PFD群6%であった(調整オッズ比2.59,95% CI 0.86-7.84,p =.11).合併症の多くは髄液関連(偽性髄膜瘤,化学性髄膜炎,水頭症など)であった.24ヵ月時点の臨床的改善はPFD-D群58%,PFD群46%で,PFD-D群の臨床的改善オッズ比は1.56(95% CI 0.85-2.94)であった.脊髄空洞径の平均縮小量はそれぞれ3.08±2.33 mm,1.22±1.79 mmであり(平均差1.86 mm,95% CI 1.27-2.46),再減圧術はそれぞれ3%,14%に行われた.健康関連QOLの変化は両群で同程度であった.

【評価】

キアリI型奇形および脊髄空洞症を有する小児は,頭痛,小脳・脳神経機能障害,疼痛,水頭症などの症状を呈することが多い(文献1,2).後頭蓋窩減圧術(PFD:posterior fossa decompression)は,臨床症状の改善と画像上の脊髄空洞の縮小をもたらし得るが(文献3,4),最適な術式選択については依然として議論がある(文献5).キアリ奇形と脊髄空洞症に対する標準術式は硬膜形成を伴う後頭蓋窩減圧術(PFD-D)であるが,PFD-D後には髄液関連合併症の頻度が高いため,硬膜形成を行わない硬膜外PFD (Dural splittingを含む)を選択する術者も多い(文献6-9).しかし,PFD単独が本当にPFD-Dより手術合併症リスクを低下させるのか,また臨床症状,神経脱落症状,脊髄空洞,QOL低下に対して有効な治療となるのかは定かではない.本稿は米国38施設で行われたRCTの結果であるが,主要評価項目である手術合併症については,PFD-D群とPFD単独群の間に有意差は認められなかった.また,臨床的改善度やQOLについても両群間に差はなかった.
こうした結論からは,両術式がイーブンとも受け止められかねないが,具体的な数値を見ると両術式の成績にはかなり差がありそうである.6ヵ月以内の手術合併症発生率はPFD-D群11/78例(14%),PFD単独群5/84例(6%)で,合併症中最多の偽性髄膜瘤はPFD-D群8例,PFD群2例であった.PFD群に対するPFD-D群の合併症発生のオッズは2.59(p =.11)であり,サンプルサイズがもう少し大きくなれば有意差が出そうである.脊髄空洞径の平均縮小量もPFD-D群3.08 mm,PFD群1.22 mmと数値上の差は大きい.さらに臨床家としての重要な関心事の一つは再減圧術の必要性であるが,術後10-24ヵ月(平均12.35ヵ月)までに再減圧術を受けたのは,PFD-D群2/78例(3%),PFD群12/84例(14%)であった.再減圧術の適応は,脊髄空洞の縮小不良4例(全例がPFD群)または脊髄空洞の進行8例(PFD-D群2例,PFD群6例)であった.
こうしたデータを見ると,PFD-DはPFDと比べて,手術合併症率は高いかもしれないが,脊髄空洞径の縮小率は大きく,再減圧術の可能性は低いように見える.かたやPFD単独の手術合併症率は低そうである.もしかするとより重症の患者に限ってはPFD-Dを採用するという発想があって良いかも知れない.
本稿で示されたデータは,個々の患者に対する手術法の選択,患者・家族への説明と同意にとって大きな意義があるのは間違いない.しかし,本研究の目的であった両術式の優劣を見極めるためには,著者らも述べているように,今後より大きなサンプルサイズ,統一された硬膜外操作・硬膜内操作・グラフト材料,対象患者の完全無作為化,長期追跡を条件とする研究を行う必要性がある.

執筆者: 

有田和徳

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