末梢性中大脳動脈急性閉塞に対する動脈内血栓溶解剤注入 vs 機械的血栓除去:傾向スコアマッチングを用いた多施設研究

公開日:

2026年6月30日  

Intra-Arterial Thrombolytic vs. Mechanical Thrombectomy in Distal Medium Middle Cerebral Artery Acute Ischemic Stroke: A Preliminary Multinational Multicenter Propensity Score-Matched Study

Author:

Salim HA  et al.

Affiliation:

Johns Hopkins Medical Center, Baltimore, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:42008175]

ジャーナル名:Clin Neuroradiol.
発行年月:2026 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

中大脳動脈の遠位中間径血管閉塞(DMVO)による急性期脳梗塞に対する機械的血栓除去(MT)の有用性はまだ確立していない(文献1-3).特にM3/M4の閉塞に対するMTは合併症リスクが高く,経動脈的血栓溶解療法(IAT)がより安全な代替治療となる可能性がある.本稿はDMVOに対するMTの国際的なレジストリー(MAD-MT)のデータを用いた,IATとMTの後方視的な比較研究である.2017年からの約6年間にIATが19例,MTが1,299例登録されていた.潜在的交絡因子を傾向スコア法で調整し,IAT 19例,MT 165例を解析の対象とした.静注血栓溶解(IVT)は両群とも約6割で実施されていた.

【結論】

初期閉塞部位(M2,M3,M4)の分布は両群で同等であった.IAT群では,25万-60万単位のウロキナーゼをマイクロカテーテルから最長2時間かけて投与した.
主要評価項目の90日後の非常に良好な機能転帰(mRS 0-1)は,IAT群38%,MT群21%であった(p =.20).機能的自立(mRS 0-2)はIAT群50%,MT群40%であった(p =.42).死亡率は同等であった(13% vs 17%).再灌流成功(mTICI:2b-3)はMT群で高率であった(90% vs 68%,p =.02)が,症候性頭蓋内出血/くも膜下出血/血管穿孔/新領域塞栓の複合はIAT群で0%,MT群で21.8%であった(p =.03).

【評価】

最近その結果が公表された中国のORIENTAL-MeVO試験は,中間径動脈の急性閉塞(MeVO)に関するRCT(ORIENTAL-MeVO)であるが,内科治療+血栓回収療法は内科治療単独と比較して,機能的自立(mRS 0-2)を有意に改善することを明らかにしている(文献4).これは,MeVOに対する血栓回収の有用性を示した世界で最初のRCTとなった.しかし対象患者の約4割がM2閉塞であり,サブグループ解析でも,M3閉塞では明確な治療効果は認められていない.一方で,補助療法としてのIATは最近のCHOICE試験により再び注目されている.同試験では,mTICI 2b-3と定義されるMT成功後に補助的IATを加えることで,90日後の機能転帰(mRS 0-1)が改善している(59.0% vs 40.4%)(文献5).
本研究は,DMVOに対するMTの国際的なレジストリー(MAD-MT,世界の37施設)のデータを用いた,IATとMTの後方視的な比較である.約6年間で登録されたMTが1,299例であるのに対してIATはわずかに19例(1.4%)に過ぎなかったが,患者背景因子や閉塞部位などを傾向スコア法でマッチングさせてMT群1,299例の中から165例を抽出して比較している.
その結果,IATは受容可能な再開通率(TICI 2b-3で68%)を示し,90日後mRS 0-1やmRS 0-2の頻度は,症例が少ないため有意差には及ばないが,数値上はMTよりも良好であった.さらに,症候性頭蓋内出血やくも膜下出血,穿孔,新領域塞栓を併せた複合合併症はMT群でのみ認められた(21.8% vs 0%).
両群ともにM3/M4閉塞が約50%を占めていたことを考慮すれば,より末梢での閉塞ほどMTの利益は小さく,手技リスクは大きくなり,IATのメリットが強調される可能性が高い.
この報告では,IATが選択された理由は記載されていないが,特にM3遠位-M4で,血管径が細い,分岐が鋭角,蛇行が強いなどの理由で,MTによる血管穿孔のリスクが高そうな症例が選択されたのかも知れない.
少なくとも現段階においてM3/M4に対するMTの有用性は確立されていないので,特に臨床症状が重症のために血管内治療を行わざるを得なかった時には,この報告を考慮し,最初からIATを行うか,MTを行っても無理に深追いせず,早期にIATへ切り替えるという選択があっても良いのかも知れない.特にM3/M4に対するMT後の末梢塞栓では,ステント・リトリーバーをさらに遠位に進めるよりは局所IATの方が安全と思われる.
なお,現在中国で進行中のRESCUE-TNK試験は,MTが困難または不適切と判断されるprimary MeVOあるいはLVOに対する血栓回収後のsecondary MeVOを対象とした,局所テネクテプラーゼ動注の有効性と安全性を検証する前向きランダム化第2相試験である(文献6).IATとMTの直接比較ではないが,末梢閉塞でMTを深追いせず血栓溶解剤で再開通を図るという戦略の根拠となる可能性がある.症例登録完了予定は2025年6月16日と記載されている.まもなく発表されるであろうその結果に期待したい.

執筆者: 

有田和徳