TSH産生下垂体腺腫の全エクソーム解析

公開日:

2017年5月27日  

最終更新日:

2017年5月26日

Whole-Exome Sequencing Study of Thyrotropin-Secreting Pituitary Adenomas.

Author:

Sapkota S, Yamada M  et al.

Affiliation:

Department of Medicine and Molecular Science, Gunma University Graduate School of Medicine. Maebashi, Gunma Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:27854551]

ジャーナル名:J Clin Endocrinol Metab.
発行年月:2017 Feb
巻数:102(2)
開始ページ:566

【背景】

TSH産生下垂体腺腫における遺伝子異常については明らかではない.群馬大学の山田正信らと虎の門病院間脳下垂体外科のチームはSNPアレイと全エクソン解析を用いて12例のTSH産生腺腫の遺伝子異常の解析を行った.まず8例にSNPアレイ解析を行い,対立アレルの欠失がないか,ヘテロ接合性の欠損が限定的な4例を選んで,腫瘍DNAと末梢血DNAの全エクソン解析を行い,腫瘍DNA特異的な体細胞変異を検索した.また,残り8例をvalidation setとして使用した.

【結論】

全エクソン解析の結果,108個のアミノ酸変化を伴う体細胞変異が検出され,このうち14個は,これまで報告のない変異であった.これらをTSH産生腫瘍のドライバー遺伝子変異の候補と考え,サンガー法でも検討した結果,6個の遺伝子(ZSCAN23,ASTN2,R3HDM2,CWH43,SMOX,SYTL3)変異が確認された.これらのうち2個はその他の腫瘍発生との関連が示唆されている遺伝子であり(SMOX,SYTL3),他の4個は腫瘍との関連性は不明なものであった. また,これらの遺伝子変異は,孤発性であり,12症例の複数例に共通したものではなかった.

【評価】

本研究では,TSH産生腫瘍に対し,全エクソン解析とSNPアレイを用いたコピー数多型解析が行われた.
全エクソン解析の結果,TSH産生腫瘍の体細胞性変異の頻度は既報の成長ホルモン産生腺腫や非機能性下垂体腺腫同様に低頻度で1.5回/腫瘍にとどまり,通常の癌腫とは大きく異なっていることが分かった.このことはTSH産生腺腫の良性腫瘍としての性質に関わっているものと思われる.

全エクソン解析では,GNAS, GPR101, USP8といった下垂体腺腫発生に関わる既知の遺伝子に変異は認めなかったものの,TSH産生下垂体腺腫のドライバー候補遺伝子変異が6個(CWH43,ZSCAN23,SYTL3,ASTN2,R3DHM2,SMOX)見つかった.また,これらの変異は弧発性であり,本研究で用いられた12例に共通するものではなかったが,いくつかの癌腫との関連が示唆されているSMOXとSYTL3遺伝子の変異が含まれていた.
一方,SNPアレイを用いた染色体のコピー数の検討では,他の下垂体腺腫と同様に,染色体異数性がTSH産生腫瘍でもありふれたものであることが示された.ただし,下垂体腺腫との関連が報告されているUSP8遺伝子が存在する15番染色体長腕(15q)やGNAS遺伝子が存在する20番染色体長腕(20q)の増幅は特記すべきことである.また,前述の6個の遺伝子のうち,4個の遺伝子(CWH43,ASTN2,R3HDM2,SMOX)が存在する領域が増幅していることも重要な知見と考えられる.

さらに,本研究では,TSH産生下垂体腫瘍のコピー数変化を伴わないヘテロ接合性の欠損(cnLOH)についても検討が行われた.TSH産生腫瘍では,1番染色体と8番染色体の短腕にのみ,複数の症例に共通してcnLOHが見られた.1番染色体短腕には,20%以上の下垂体腺腫でプロモーターがメチル化され発現が抑制されているCDKN2C遺伝子が存在する.cnLOHは,遺伝子のメチル化の複製を生じることにより癌抑制遺伝子の作用を無効にすることが報告されており,今後,エピジェネティックな検討も必要となる.

本研究で用いられた症例数は限られているが,TSH産生下垂体腫瘍の体細胞性変異やコピー数についての重要な知見が得られた.今後,エピジェネティクスやトランスクリプトームな解析を含む,より大規模なスタディを行うことで,TSH産生下垂体腺腫にとってキーとなるような生物学的な背景が明らかになると考えられる.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

新里能成

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