米国における下垂体手術の半数は未だ顕微鏡手術:保険請求データベースから

公開日:

2017年11月9日  

最終更新日:

2017年11月9日

Comparison of Complications, Trends, and Costs in Endoscopic vs Microscopic Pituitary Surgery: Analysis From a US Health Claims Database.

Author:

Asemota AO  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Johns Hopkins Hospital, Baltimore, Maryland

⇒ PubMedで読む[PMID:28859453]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2017 Sep
巻数:81(3)
開始ページ:458

【背景】

医学論文や学会発表等によれば,下垂体手術は基本的にどこでも内視鏡下で実施されているという印象を受けるが,実態はどうなのか.Johns Hopkins病院のAsemotaらは米国における保険請求データベース(Truven Health Analytics MarketScan database)を利用して検討した.2010から2014までのデータベースから5,886例のトルコ鞍部病変に対する手術を抽出出来た.

【結論】

対象期間の5年間では顕微鏡手術54.49%,内視鏡手術で45.51%で,未だ顕微鏡手術がわずかに多かった.ただし,経年的には内視鏡手術の割合が有意に増加していた.手術合併症は40.4%に発生し,尿崩症(16.90%),SIADH(2.02%),医原性下垂体機能不全(1.36%),水・電解質異常(5.03%),髄液鼻漏(4.42%),その他の髄液漏(6.52%)が主なものであった.傾向基本分析では内視鏡手術は顕微鏡手術に比較して,尿崩症(以下OR=1.48),SIADH(1.53),低ナトリウム(1.17),髄液鼻漏(2.48),術後発熱(OR = 4.31)の頻度が有意に高かった(p < 0.05).

【評価】

Truven Health Analytics MarketScan databaseは米国における2億2千万人分以上の保険医療情報を集積する保険請求データベースである.この中には保険請求,治療内容,治療結果,医療費を含む何百種類の匿名化情報が含まれている.AIによる医療革命を目指すIBM Watsonが2016年に買収した.この買収によってIBMは累計で3億人分の医療情報を確保し,世界最大級の医療データベースを構築出来るとみられている.
本研究は保険請求ベースのデータであるので,いわゆるレセプト病名が入っている可能性を否定出来ず,その意味では正確性に乏しいかも知れないが,多数例を解析しており,現状をある程度反映していると考えて良い.この解析によれば,トルコ鞍部病変に対する手術方法として,内視鏡手術はまだ半数であるが,徐々に増えていること,しかし手術後の合併症は内視鏡の方が有意に多いことが明らかになった.また,内視鏡手術の導入速度については地域差があり,北中部や北東部では早いが,南部や西部では遅いことが報告されている.入院費は38,447$ vs. 32, 913$と内視鏡手術が有意に高い(p < .001).入院期間は顕微鏡手術3.7日vs.顕微鏡手術3.8日と差は無い(p = 0.11).内視鏡手術群における手術後の合併症の多さは,この手術方法への転換に伴う初期不良であるのか,本質的に内視鏡手術に伴うものであるのか,引き続いて大規模なデータベースでの検討が必要である.
翻って,本邦ではどうなっているのか.本年度から日本脳神経外科学会が全手術症例をカバーする前向き悉皆データベース(JND)を構築するので,今後数年経てば,詳細な解析が可能になるであろうが,それまではDPCデータ等を用いた住民ベースでの研究が必要である.

執筆者: 

有田和徳

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