成長ホルモン補充開始後4年間のAHQの結果:本邦多施設共同研究から

公開日:

2017年11月11日  

最終更新日:

2020年12月17日

Assessment of quality of life on 4-year growth hormone therapy in Japanese patients with adult growth hormone deficiency: A post-marketing, multicenter, observational study.

Author:

Ishii H  et al.

Affiliation:

Nara Medical University, 840 Shijo-cho, Kashihara, Nara 634-8521, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:28923784]

ジャーナル名:Growth Horm IGF Res.
発行年月:2017 Oct
巻数:36
開始ページ:36

【背景】

2006年に成長ホルモン分泌不全症(GHD)に対するGH補充療法の効果を検証したrandomized controlled studyの結果が本邦より報告された(文献1).その結果,除脂肪体重の有意な増加,体脂肪量の有意な低下などが示されたが,Short Form-36(SF-36)とQuality of Life Assessment of GH Deficiency in Adults(QoL-AGHDA)を用いた患者のQOL評価では,偽薬と比較してGH補充による有意な効果を示すことができなかった.
本稿では日本人161例のGHD患者に対して,Adult Hypopituitarism Questionnaire(AHQ)を用いてGH補充療法開始後4年間の患者QOLを多施設共同で調査した.

【結論】

GH補充量は男性に比べて女性に多く,その結果として到達したIGF-1 SDスコアは男女同等であった.また,GH補充量は成人発症例に比べて小児発症例に多かったが,IGF-1 SDスコアの増加幅は同等であった.
全体としてみると,GH補充開始3ヵ月目から4年目までPsycho-social domainとPhysical domainの両者においてAHQのスコアが有意に改善した.男女別,発症時期別にみると,GH補充療法によるAHQのスコア改善は男性,成人発症において顕著に認められた.

【評価】

本稿によって日本人のGHD患者においても,GH補充療法によるQOL改善効果を証明したことは意義深い.本邦では2009年より公的医療費補助を受けてGH補充療法が行えるようになり,患者にとっては治療を受けるハードルが低くなった.一方,GH補充には高額な医療費がかかることから,費用に見合う有効性を示すことは重要であると考えられる.
GH補充療法によるQOL改善効果を,有意差をもって示すことが難しかった理由はこれまでも議論され,その1つにQOLの評価項目がGHD患者の評価に即していないことが挙げられてきた.本稿はGHD患者のQOL評価にAHQが有効な手段であることも証明する結果となった.
臨床現場ではGH補充療法によって驚くほどQOLが改善し,治療に見合う効果が得られていると実感できる患者がいる.一方であまり変化のない患者もいる.身体的な効果は別として,GH補充開始前にQOL改善効果を予測できれば,より適切に治療を提供できると考えられる.本稿では特に成人発症の男性においてQOL改善効果を認めることが示された.今後,さらに個別にどのような患者でQOL改善が望めるのか予測できるようになることを期待したい.

執筆者: 

木下康之   

監修者: 

有田和徳

参考サマリー