経蝶形骨洞手術後の低ナトリウム血症予防のためのパスは有効か:BNIにおける失敗

公開日:

2018年1月22日  

最終更新日:

2018年2月8日

Implementation of a Postoperative Outpatient Care Pathway for Delayed Hyponatremia Following Transsphenoidal Surgery.

Author:

Bohl MA  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Barrow Neurological Institute, St. Joseph’s Hospital and Medical Center, Phoenix, Arizona

⇒ PubMedで読む[PMID:28449052]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2018 Jan
巻数:82(1)
開始ページ:110

【背景】

著者らは,2016年の前報で経蝶形骨洞手術を受けた患者の8.9%が30日以内に再入院し,このうち約半数が遅発性低ナトリウム血症(delayed hyponatremia:DH)が原因で,DHの患者では再入院までの期間は平均8日であることを報告している(参考文献1).この結果を受けて,著者らはDHの早期検出と管理のためのパス(DHケアパス)を作成し,その効果を検証した.パスの中心は退院時(術後2.7日)と術後5〜7日の外来で血清Naとcortisolをスクリーニングし,その段階で134 mmol/L以下の低Naが認められれば,プロトコールに基づいて,その重症度に応じた管理を行うというものであった.対象はパス導入後の188名とパス導入以前の患者229名.

【結論】

パスの導入によってDHの発見は増加した(15% vs. 7%,p=0.006).しかし,DHによる再入院率は変わらず(6% vs. 4%),臨床的なアウトカムも不変であった.パス導入後にDHで再入院した患者は11人で,パスの失敗の理由は,スクリーニング時の軽度低Naの外来での管理の失敗(4人),スクリーニング時の正常Naレベルからの急速なNaの低下(3人),Naスクリーニングからの脱落(3人),スクリーニング段階でのDH(1人)であった.

【評価】

BNIにおけるDHケアパスは,退院時(術後2.7日)と術後5〜7日に外来で血清Naとcortisolをスクリーニングし,その段階で134 mmol/L以下の低Naが認められれば,プロトコールに基づいて,その程度に応じた管理を行うものであった.管理の中身は,水制限,食塩経口投与,コルチゾル投与を低Na血症の程度に応じ調整するというものであった.また,午前のコルチゾル値が10µg/dL以下ではハイドロコーチゾン20mg/dayの補充を行った.さらに,退院後1〜2日後の電話による症状チェック(頭痛,吐き気,倦怠感,筋肉痛,関節痛など)もルーチンで行った.
著者らのDHケアパスの導入は失敗に終わったわけだが,スクリーニング脱落例を除けば,その主要な理由はスクリーニング時の軽度の低Naの外来での管理の失敗,スクリーニング時の正常Naレベルからの急速なNaの低下の2つとなる.この結果からは,彼らのパスよりも,もっと細かなチェックとケアがなければ,術後の低Na血症とそれによる再入院は防ぎ得ないことを示している.
パス導入後にDHで再入院となった患者の手術から再入院までの期間は6〜11日(中央値8日)で,従来報告されている術後Naの底値の日と一致する(参考文献1,2).日本のDPCデータでは下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞手術を受けた患者の入院期間の全国平均は20日となっており,おそらく大部分のDH患者は入院中に発症していることが予想される.
術後DHのリスク因子が不明であること,手術後5〜7日でのスクリーニングでもその後のDHを予測し得ないこと,軽度の低Naの管理が外来では失敗に終わることがあることを考慮すれば,保険制度と医療経済が許すならば,手術後11日以降の退院が望ましいということになる.そうでなければ,手術後11日頃までは,退院後頻回の電話等によるフォローや通院が必要であろう.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

藤尾信吾

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