DNAミスマッチ修復酵素の低下が下垂体腺腫の増殖を促進する

公開日:

2018年4月10日  

最終更新日:

2018年4月17日

Reduced Expression of Mismatch Repair Genes MSH6/MSH2 Directly Promotes Pituitary Tumor Growth via the ATR-Chk1 Pathway.

Author:

Uraki S  et al.

Affiliation:

First Department of Internal Medicine, Wakayama Medical University, Wakayama, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:29342268]

ジャーナル名:J Clin Endocrinol Metab.
発行年月:2018 Mar
巻数:103(3)
開始ページ:1171

【背景】

DNAミスマッチ修復蛋白(MMR)は,MLH1,MSH2,MSH6,PMS2,MLH3,MSH3などからなり,DNAの複製の際,エラーを発見し,修復する役割を持っている.DNAミスマッチ修復蛋白に遺伝子変異があると,「がん遺伝⼦」や「がん抑制遺伝⼦」の複製時のエラーが修復されず発癌につながる事が知られている.また,この蛋白の欠損・低下は,アルキル化剤などの抗癌剤の耐性メカニズムの1つであることが解っている.しかし,下垂体腺腫の増殖におけるこれらDNAミスマッチ修復蛋白の役割は解明されていない.和歌山大学のUrakiらは,下垂体腺腫におけるMMRのmRNAならびに蛋白の発現をPCRと免疫組織化学で評価し,下垂体腺腫の体積倍加時間(TVDT)との関係を検討した.対象は下垂体腺腫47例.

【結論】

MSH6とMSH2発現は,TVDTと相関していた(p=0.01).MSH6,MSH2遺伝子発現はATR発現と相関していた(ともにp<0.00001).ACTH産生マウス下垂体癌株(AtT-20)においてsiRNAでMSH6やMSH2発現をノックダウンするとATR発現低下を通じて,細胞増殖が促進された.MSH6とMSH2の抑制は,直接に下垂体腺腫細胞の増殖か,ATR–Chk1経路を通じたアポトーシスを抑制して,腺腫細胞数の増加をもたらす.

【評価】

DNAミスマッチ修復蛋白はDNA複製時のエラーを発見・修復する蛋白で,この遺伝子が先天的に欠損した患者(Lynch症候群)では,大腸癌,子宮癌,卵巣癌が高率に発生する(参考文献1).また最近のスウェーデンにおける全国研究ではLynch症候群では下垂体腺腫の患者が多いことが報告された(参考文献2).本研究では,MSH6とMSH2発現が,腫瘍体積倍加時間(TVDT)と相関していることを明らかにした.このことは,MSH6とMSH2低発現腫瘍では,腫瘍体積倍加にかかる時間が短い,すなわち腫瘍増殖が早いことを意味する.さらに本研究では,下垂体癌細胞株において,MSH6やMSH2発現をノックダウンするとATRの発現が低下することを示した.ATRは細胞周期におけるG2期からM期に移行する際のチェックポイントに関わる蛋白である.MSH6やMSH2によってDNA損傷が認識されるとATRのリン酸化→Chk1のリン酸化→Cdc25Aのリン酸化のダウンレギュレーション→Cdc2の脱リン酸化阻害を経て→細胞周期の停止,アポトーシスをもたらす.すなわち,MSH6とMSH2低発現腫瘍ではアポトーシスも抑制されるため,腫瘍体積増加時間が短縮する.
一方,従来,下垂体腺腫における増殖能の指標とされている,Mib-1ラベル値はMSH6,MSH2発現と相関がなかった.今後,MSH6,MSH2のmRNA低発現の原因解明,同蛋白の低発現が細胞増殖をもたらす機序(直接作用か他の遺伝子-蛋白を介してか)の解明が待たれる.また,より大規模なコホートを用いて,産生ホルモン,亜型(sparselyあるいはdensely granulated type),年齢による違いなどの検討も必要であろう.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

藤尾信吾

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