胸腺腫が抗Pit-1抗体症候群を引き起こす

公開日:

2018年5月7日  

最終更新日:

2018年5月15日

A novel thymoma-associated autoimmune disease: Anti-PIT-1 antibody syndrome.

Author:

Bando H  et al.

Affiliation:

Division of Diabetes and Endocrinology, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Japan.

⇒ PubMedで読む[PMID:28216655]

ジャーナル名:Sci Rep.
発行年月:2017 Feb
巻数:7
開始ページ:43060

【背景】

Pit-1は下垂体ホルモンのうちGH,TSH,プロラクチン(PRL)の転写を活性化する核蛋白であり,PIT-1遺伝子異常は先天性のGH,TSH,プロラクチン欠損症を引き起こすことが知られている.
神戸大学の高橋らのグループは,これまでGH,TSH,プロラクチンの3系統が障害される成人発症の抗Pit-1抗体症候群の3症例を報告してきた(文献1,2).その機序として,Pit-1を特異的に認識する細胞障害性T細胞(CTL)が産生され,下垂体のGH,TSH,プロラクチンを産生・分泌する細胞を特異的に攻撃することが判っていた.しかし,何故,Pit-1に対する免疫寛容の破綻が生じるのかは謎であった.長い探求の末,彼らはついにその原因を突き止めることが出来た.

【結論】

長い経過観察の中で,3症例とも胸腺腫を有することがわかった(一例は剖検によって).免疫染色では,この胸腺腫上皮細胞にはPit-1が強陽性であった.さらに,胸腺腫摘出後の患者では抗Pit-1抗体の力価が低下し,CTLのPit-1に対する反応性が著明に低下した.こうした事実は,胸腺腫上皮腫瘍細胞における異常なPit-1の発現が,この抗Pit-1抗体症候群の原因事象であることを強く示唆する.すなわち抗Pit-1抗体症候群は胸腺腫関連自己免疫症候群の1つである.

【評価】

対象はわずか3人の患者であるが,最初の患者との出会いから14年を通じて,常に「なぜ,どうして」という科学者としての心の問いかけにひたすら誠実に応えていった結果見いだされた,全く新しい疾患概念である.胸腺腫という,比較的ありふれた疾患の中に,極めてまれな抗Pit-1抗体症候群の起源が潜んでいるという発見にいたる経過は,叙事詩的とも言うべきである.
また,この研究チームに,自らの問いかけに一歩一歩応えるための,知識と技術があったのも幸いであった.
彼らによれば,抗Pit-1抗体症候群は胸腺腫関連自己免疫症候群の1つであり,いわゆる傍腫瘍症候群の1つとして位置づけられる.胸腺腫に関連する傍腫瘍症候群としては重症筋無力症が有名である.重症筋無力症の機序は十分解明されていないが,一説として胸腺腫細胞によってアセチルコリン・レセプター(AchR)抗原の異常な呈示が行われ,これによりAchRに対する免疫寛容の破綻の結果,抗AchR抗体が産生されるという報告があり,研究者チームは同様のメカニズムが抗Pit-1抗体症候群についても起こっていると想定している.すなわち胸腺腫における異所性抗原提示によって,非自己として認識するT細胞が育成される(ポジティブ選択).一方で胸腺腫では髄質が存在しないため,自己細胞を攻撃するようになったT細胞の排除(ネガティブ選択)が行われないという機序である.
この発見は,今後,胸腺腫のみならず様々な腫瘍によって発症する他の傍腫瘍症候群発生のメカニズムの解明と治療にもつながる重要なbreak throughである.一方,なぜ胸腺腫細胞がPit-1を発現するようになったのか,またPit-1特異的CTLが,なぜPit-1という核内蛋白を有する下垂体細胞を認識し,攻撃するのか,解明を持ちたい.次巻が待ち遠しいhero's journeyである.

執筆者: 

有田和徳

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