非機能性下垂体神経内分泌腫瘍(nonfunctioning PitNET)とは何か:レビュー

公開日:

2018年9月10日  

最終更新日:

2018年9月20日

Histopathological classification of non-functioning pituitary neuroendocrine tumors.

Author:

Manojlovic‑Gacic E & Casar‑Borota O  et al.

Affiliation:

Department of Clinical Pathology, Uppsala University Hospital, Uppsala, Sweden

⇒ PubMedで読む[PMID:29275530]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2018 Apr
巻数:21(2)
開始ページ:119

【背景】

昨年発行されたWHO classification of tumours of endocirne organs (第4版)(参考文献1)では非機能性下垂体腺腫は下垂体特異的な転写因子(SF-1,Y-Pit,Pit-1)発現,ホルモン産生能(gonadotropine,ACTH,GH,PRL,TSH)によって8個の亜型(type)に分けられた.一方,同出版と同時にInternational Pituitary Pathology Clubは,従来の「下垂体腺腫」という呼び方の不適切さを指摘して,新たに「下垂体神経内分泌腫瘍(pituitary neuroendocrine tumor,PitNET)」という名称を提案しており(参考文献2),今後,この名称が普及する可能性がある.この名称変更の理由については評価の項でまとめるが,本稿も従来の非機能性下垂体腺腫ではなく新たに提案された非機能性下垂体神経内分泌腫瘍(NF-PitNET)という名称を用いて,それぞれの亜型の病理診断のポイント,臨床像,治療について,レビューしている.包括的で簡潔なレビューであるので下垂体腫瘍に携わる者が読んでおくべき必読論文である.

【結論】

非機能性下垂体腺腫すなわちNF-PitNETは,PitNETのうち,内分泌過剰症状を呈さないもので,PitNETの1/3を占める.NF-PitNETは,免疫染色における転写因子と下垂体前葉ホルモンの発現によってGonadotroph(転写因子:SF-1,ホルモン:ゴナドトロピン),Corticotroph(T-pit,ACTH),Somatotroph(Pit-1,GH),Thyrotroph(Pit-1,TSH),Lactotroph(Pit-1,PRL),Null cell(None,None)など8亜型に分けられる.
たとえば,GH高値を伴わない下垂体腺腫がPit-1とGHに陽性であれば,病理診断名はsilent somatotroph PitNETになる.Null cell PitNETは転写因子もホルモンも全く染まらないものと定義されており,その頻度は従来考えられたよりははるかに少ない(2%).8亜型で最も頻度が高いのがsilent gonadotroph PitNETで80%を占め,次いでsilent corticotroph cell PitNETが15%である.これら8亜型の中で,silent corticotroph cell PitNETと,これまでsilent subtype 3 adenomaと呼ばれていたplurihormonal Pit-1PitNETは最もaggressiveな腫瘍である.

【評価】

WHO内分泌臓器腫瘍の分類第3版(2005年)では下垂体腺腫の中で,核分裂像の存在,Mib-1値(>3%),P53陽性に基づいて,より活動的(aggressive)な腫瘍を異型性下垂体腺腫(atypical adenoma)と定義したが,その後,臨床像との解離が指摘され,第4版(2017年)では異型性下垂体腺腫の概念そのものが否定された(参考文献3).結果として,現在は下垂体前葉から発生する腫瘍は,ごく一部の転移を伴うものを下垂体癌(pituitary carcinoma)と呼ぶ以外は,すべて下垂体腺腫(pituitary adenoma)という名前で呼ばれることになっている.
一方で,下垂体腺腫の中には周囲組織に浸潤するもの(40%),急速に成長するもの,再発を繰り返すものも多く(>10%),その結果ホルモン過剰症による重篤な症状を呈し,場合によっては死をもたらすものもある.このような腫瘍を,良性かつ限局性で予後良好なイメージを伴う“腺腫(adenoma)”という概念でひとくくりすることは困難である.さらに,下垂体腺腫の患者は癌登録の対象でもないし,癌患者が得られる適切な治療や医療保険上の給付から排除されてきたという現実がある.
そこで,下垂体腺腫と同様に,内分泌学的な多様性(機能性も非機能性もある),生物学的な多様性(癌ではなくても浸潤や転移がある),臨床的な多様性を示す膵臓や消化管に出来る神経内分泌腫瘍(PNET)と同じネーミングすべきではないかと考え方が以前から存在していた.この案件は2016年のInternational Pituitary Pathology Club Meeting (Annecy,France)で議論され,その結果が2017年に報告された(参考文献2).
今後,この下垂体神経内分泌腫瘍(pituitary neuroendocrine tumor,PitNET)という名称が,学会等で公式に承認されるかどうかは不明ではあるが,少なくとも本論文の執筆陣のように下垂体病理を専門としている研究者の間では使用され始めている.なお,神経内分泌という用語は,PNETと同様に下垂体腺腫がペプチドホルモンを産生し,分泌顆粒と分泌小胞という神経終末“シナプス”との共通構造を有すること,神経細胞への分化を示すクロモグラニンを産生することから命名されたものと想像される.しかし,クッシング以来使い慣れてきた下垂体腺腫の病名を返上するのが良いのか,一部の生物学的に活発な腺腫に対して異型性下垂体腺腫のように形容詞をつけて分けた方が良いのか,しばらく議論は続くと思われる.
さて,非機能性下垂体腺腫を下垂体細胞の系統(lineage)によって分けるべきであるとする今回のWHO分類であるが,その実際の利用はこれからであり,今後修正される可能性はある.しかし,今回のWHO第4版の提言の意義は非機能性下垂体腺腫を語るための共通の言語を提供したということであり,将来は,下垂体腫瘍のルーチンの免疫染色に,従来の下垂体前葉ホルモンに加えて,3つの転写因子(SF-1,T-Pit,Pit-1)は必須になると思われる.しかしながら2018年9月の段階で,免疫染色に使用出来るT-pit抗体は市販されていなので,SF-1あるいはPit-1に染まらない非機能性下垂体腺腫はSilent Corticotroph腺腫である可能性を強く疑いながらACTH免疫染色を丁寧に見ていくしかないのが現状であろう.

執筆者: 

木下康之   

監修者: 

有田和徳

メールで読みたい方はこちら

メルマガ登録する