内視鏡下手術は豊富な経験を有する下垂体外科医の顕微鏡下手術に対する優越性を示さず―でも彼らはもういない:TRANSPHER研究

公開日:

2019年5月30日  

最終更新日:

2019年5月30日

Results of a prospective multicenter controlled study comparing surgical outcomes of microscopic versus fully endoscopic transsphenoidal surgery for nonfunctioning pituitary adenomas: the Transsphenoidal Extent of Resection (TRANSSPHER) Study.

Author:

Little AS  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Barrow Neurological Institute, Phoenix, Arizona.

⇒ PubMedで読む[PMID:30901746]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2019 Mar
巻数:[Epub ahead of print]
開始ページ:

【背景】

近年,下垂体腺腫の手術では完全内視鏡下手術が選択されることが多いが,顕微鏡手術に対して真に内視鏡手術が優れているのか,エビデンスは不充分である.本研究は,この点を明らかにするために実施された非機能性下垂体腺腫に対する経鼻経蝶形骨洞手術の摘出率に関する多施設前向き登録である.全国7カ所の下垂体センター(BNI,ピッツバーグ大学,シカゴ大学,セントルイス・ワシントン大学,ワシントン大学など)で,非機能性下垂体腺腫に対して実施された顕微鏡下手術82例と内視鏡下手術177例が対象となった.術者は顕微鏡下手術で4人が内視鏡下手術で11人が指定された.一次エンドポイントは術後MRIにおける全摘出.

【結論】

顕微鏡下手術を行った術者の方がより長い経験年数を有していた (34.2 ± 6.4 vs. 9.5 ± 6.0年,p<0.001).全摘出率は顕微鏡下手術80.0%,内視鏡手術83.7%で差はなかった(OR 0.8,p=0.47).体積摘出率,入院期間,手術関連死亡,予定外再入院率も二群間で差はなかった(p>0.2).手術後6ヵ月目の新規ホルモン障害の頻度は顕微鏡下手術で有意に多かった(28.4%vs. 9.7%,p<0.001).手術時間は顕微鏡下手術で有意に短かった(219.0 ± 85.5 vs. 293.1 ± 128.1分,p<0.001).

【評価】

この研究は,非機能性下垂体腺腫に対して,経験を積んだ術者による顕微鏡手術より,内視鏡手術が全摘率が高いという優越性の証明を目的とした非ランダム化前向き多施設研究である.この目的のため,下垂体腺腫の手術経験200例以上で年30例以上の経験を有する者を術者として指定した.結果は,一次エンドポイントに差はなく,その意味ではこの試験は当初の目標を達することはできなかった.さらに,3cm以上の大型腫瘍でも,海綿静脈洞浸潤腫瘍でも二群間に全摘出率,摘出体積率差はなかった.注意すべきは,この試験はRCTではないため,顕微鏡手術群で頭痛発症患者が多く(53.7% vs. 28.2%,p<0.001),内視鏡手術群で偶発症例が多い(14.6% vs. 29.9%,p=0.01%)などの違いがあり,また有意ではないが,顕微鏡手術群で再発症例が多く,腫瘍体積が大きい傾向であった.
同程度の全摘率を達成したという点で,内視鏡手術は経験豊かな下垂体外科医による手術に比較して優越性を示すことはなかったのは事実である.しかし,非機能性腺腫が良性の疾患であることを考慮すれば,たとえ根治率の点で多少譲歩しても,新たな下垂体機能障害の発生は避けなければならなないわけであるが,本シリーズでは顕微鏡手術群で有意に高かった(p<0.001)点は重視されるべきである(文献1,2).やはり,顕微鏡下で見えない部分の腫瘍摘出操作で無理をしたのかなという推測がなりたつ.
何より興味深いのは,この研究は予定していた694例の37.5%(260例)の登録の段階で中止になったが,その理由は顕微鏡手術の術者4人のうち2人がリタイアし,同じくらいの経験を有する術者のリクルートが出来無かったという点である.すなわち,今でも顕微鏡下手術は,下垂体機能の犠牲という点に目をつぶれば,内視鏡と同程度の全摘出率を提供するが,もはやそれが出来る下垂体外科医は第一線から退きつつあることを示した.自分の技術への深い自信を持ちながらも“reticent”な顕微鏡下下垂体外科医へのレクイエムともいうべきエピソードである.ただし,クッシング病などの機能性下垂体腺腫では別のストーリーが待っているのかも知れない.

執筆者: 

藤尾信吾   

監修者: 

有田和徳

メールで読みたい方はこちら

メルマガ登録する