これでわかる下垂体後葉腫瘍の臨床像:266例のメタ解析

公開日:

2019年6月10日  

最終更新日:

2019年6月14日

Primary tumors of the posterior pituitary: A systematic review.

Author:

Guerrero-Pérez F  et al.

Affiliation:

Department of Endocrinology, Bellvitge University Hospital, Carrer de la Feixa Llarga, s/n, 08907 L’Hospitalet de Llobregat, Barcelona, Spain

⇒ PubMedで読む[PMID:30864049]

ジャーナル名:Rev Endocr Metab Disord.
発行年月:2019 Jun
巻数:20(2)
開始ページ:219

【背景】

WHO 2017年の内分泌腫瘍第4版によれば,下垂体後葉のpituicyteに由来する腫瘍としてpituicytoma,granular cell tumor(GCT),spindle cell oncocytoma(SCO),sellar ependymoma(SE)の4種が含まれるが,その臨床像は明白とはなっていない.スペインのGuerrero-Pérezらは,過去の136文献から266例の下垂体後葉腫瘍を抽出した.内訳はpituicytoma:135,GCT 69,SCO 47,SE8,混合性腫瘍7例.全体としては,性差はなく発症時平均年齢は 48± 22 歳.腫瘍径平均値は 22±14mm.

【結論】

主徴候は視機能障害:58.1%,頭痛:40.5%,下垂体機能障害:34.4%,高コルチゾリズム:4.1%,多飲多尿:2.4%,先端巨大症容貌:2.0%.腫瘍の存在部位は鞍内から鞍上:47.6%,鞍上:23.1%,鞍内限局:24.6%.64.4%が経蝶形骨洞手術を,28.3%が開頭手術を受けた.再発率は6.4%.概して臨床像は4群間で差はなかったが,SCOはpituicytomaやGCTに比較して,発症年齢が遅く(60,47,47 歳,p=0.023),腫瘍径が大きかった(25,20,20 mm,p=0.019).

【評価】

下垂体後葉に起源を有する腫瘍にはpituicytoma, granular cell tumor(GCT),spindle cell oncocytoma(SCO),sellar ependymoma(SE)の4種類があるが,かってその発生については多くの説があり混乱していた.例えば,GCTは“granular cell myoblastoma” ,“granular cell neuroma”,“granular pituicytoma”,“granular cell schwannoma”,“choristoma”などの名称で呼ばれたこともある.またSCOは下垂体前葉内の濾胞衛星細胞に由来するとの主張もなされた.しかし,2009年にLeeらが下垂体後葉のpituicyteならびにGCT,SCOの腫瘍細胞においてthyroid transcription factor 1(TTF-1)が共通に発現していることを報告(文献1),これを受けて,pituicytoma,GCT,SCO,SEはすべて,下垂体後葉のグリア細胞であるpituicyteに起源を有する腫瘍と定義された.
一方,これらの腫瘍の臨床像については詳細ではない.これはひとえに,その発生頻度が低いことによる.たとえば,ドイツのGerman Pituitary Tumors Registryに登録された4,122例の下垂体部腫瘍のうち後葉腫瘍はpituicytomasの3例(0.07%)のみであった(文献2).本稿は,この稀な下垂体後葉腫瘍の臨床像を大規模なメタ解析で明らかにしようと試みたものである.この研究によって,これまで不明であった下垂体後葉腫瘍の臨床像が少し見えてきた感がある.
4群間で臨床像に大差はないが,腫瘍径,発症年齢,鞍上進展の頻度に若干の差異が認められている.いずれもWHO grade 1の良性腫瘍であるので,手術が治療の第一選択であるが,その存在部位(鞍上限局あるいは鞍上進展が約7割)のために全摘出率は高くなく(54%),下垂体機能低下,尿崩症など手術による合併症も約3~4割に認めらている.また,これらの腫瘍は血流が豊富で,このメタ解析の対象でも出血性の合併症は30%と高頻度である.
免疫組織学的はTTF-1に対する陽性と(SEに関しては症例が少なく不明だが),下垂体前葉に由来するchromogranin A(CgA),synaptophysin,下垂体前葉ホルモンへの陰性は後葉由来腫瘍のホールマークである.
本論文で興味深いのは,臨床症状において多飲多尿を呈した症例がわずか2.4%に過ぎなかったことである.たとえ下垂体後葉原発であっても,緩徐進行性の腫瘍であれば,視床下部に進展しない限り,尿崩症は起こらないという原則を改めて確認できる.当然ながら,尿崩症がないことは下垂体後葉原発腫瘍を否定する根拠にはならない.逆に,画像所見から後葉原発腫瘍に見えても,尿崩症を呈していれば,むしろ転移性腫瘍,リンパ腫などの悪性腫瘍を考慮する必要があるだろう.
これらの後葉腫瘍の中に,稀ながら高コルチゾル血症(4%)や高成長ホルモン血症(2%)を伴う症例があることを示した点も興味深い.偶然に下垂体後葉腫瘍にホルモン産生微小下垂体腺腫や下垂体過形成が伴う可能性や,下垂体後葉腫瘍からこれらのホルモンが分泌される可能性,下垂体後葉腫瘍から分泌される伝達物質によってホルモン過剰症が起る可能性が挙げられるが,詳細は不明である.なお,軽度の高プロラクチン血症を伴う症例が多いのは,stalk-effectのためである.
本論文は,過去の下垂体後葉由来の腫瘍の報告のうち,個々の症例の臨床情報が明らかな136文献を初めとして,全体で160文献を解析した包括的レビューであり,当分の間,この領域の研究では必須のリファレンスとなるであろう.

執筆者: 

藤尾信吾   

監修者: 

有田和徳

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