MRIで見えないクッシング病であっても経蝶形骨洞手術が一番 vs. それは言い過ぎでしょう論争

公開日:

2019年8月6日  

最終更新日:

2019年8月8日

Why we should still treat by neurosurgery patients with Cushing's disease and a normal or inconclusive pituitary MRI.

Author:

Cristante J  et al.

Affiliation:

Endocrinology unit, CHU Grenoble-Alpes, Grenoble, France

⇒ PubMedで読む[PMID:31087046]

ジャーナル名:J Clin Endocrinol Metab.
発行年月:2019 May
巻数:[Epub ahead of print]
開始ページ:

【背景】

ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)にはごく微小な腺腫が多く,術前MRIで発見出来ないことも多い.これに対するベストの治療は何か,これまで議論が続いてきた(文献1,2).グルノーブル大学のチームは,自験のACTH産生腺腫の経験を基にこの問いに応えた.対象は同大学で,1992~2018年に経蝶形骨洞手術(最初は上口唇下顕微鏡→最近は経鼻内視鏡)が施行された195例.MRI分類はマクロ腺腫:18,ミクロ腺腫:89,inconclusive:44,normal(negative):44例.術後寛解は手術後cortisol値が50 µg/L以下と定義.

【結論】

Inconclusive/normal MRIの割合は1992~96年で60%,2012~2018年で27%と減少した(p=0.037).4群における術中の腫瘍の可視率は,95%;100%;86%;79%(p=0.012)であったが,手術による寛解率は85%;94%;73%;75%で,4群間で差がなかった(p=0.11).ACTH産生下垂体腺腫の術前MRIでの描出率は上がってきているが,それでもエキスパート脳外科医の術中観察にはかなわない.Inconclusive/normal MRIであっても,薬物療法ではなく,熟練した外科医による手術にゆだねるべきだ.

【評価】

たぶんそうだろうと思う主張であるが,なにぶん対照のない話であり,術後の下垂体機能も記載されていなので,妥当性の判断は下せない.
著者等が全体の45%を占めるinconclusive/normal MRI症例にどのように対処しているかみると,normal MRIの全例(44/44)とinconclusiveの大部分(34/44)で両側の下垂体静脈洞サンプリング(IPSS)が実施され,下垂体性のACTH過剰を証明している.InconclusiveでIPSSを施行しなかった10例では内分泌学的検査の結果が下垂体性ACTH過剰に典型的であったという.実際の手術では,術野から両側の海綿静脈洞採血を行い,ACTH値が高い方の下垂体半側を探索して腺腫と周囲下垂組織片を摘出した.腺腫が見つからない場合は,ACTH値が高い側の下垂体半分を摘除した.また,初回手術後非寛解の11例で早期に再手術が施行され,より広範囲な下垂体摘除を行った.一方2011年以降は,術中海綿静脈洞採血は行わず,内視鏡単独手術で,術中所見を基に腺腫の位置を推定出来たという.
最近では術前MRIで描出できない(inconclusive/normal)ACTH産生腺腫に対しては,薬物療法第一の考え方も有力になってきた(文献3)が,薬物療法の寛解率は前向き研究で19~23%,後ろ向き研究でも多くは50%以下にとどまっている.また,薬物療法は生涯にわたって継続する必要性があり,副作用も多い.一方,本研究によればinconclusive,normal MRI症例の術後寛解率は73%,75%と高く,さらに外科治療のみが下垂体ACTH分泌の概日リズムを回復させ得る,おまけにコストもずっと安く,10~20%の再発率を差し引いても,そのメリットは大きい.本論文の著者等はinconclusive/normal MRIのクッシング病であっても,やはり手術が第一選択になると主張する.
これに対して,マルセイユ大学のCastinetti FらはLetter to the editorの中で(文献4),MRIの4群間で寛解率に差はないが,マクロ腺腫/ミクロ腺腫とinconclusive/normalの2群に分ければ,差が出るじゃないか(確かにp=0.0272となる,Fisher),またnormal MRIでは半分の症例で部分下垂体切除や前下垂体切除が実施されているが,それらの患者の下垂体機能について記載されていないと批判している.さらにnormal MRI症例でもケトコナゾールやミトタンの長期投与によって,数年で,MRIで見えるようになるものが少なくないなどの理由(wait and see approach)で,“MRIで見えないクッシング病にも経蝶形骨洞手術が一番”という言説はトーンダウンさせた方がいいと言う.こうした批判に対しては,著者等の反論も出されているので参照されたい(文献5).
確かに,下垂体切除に伴う汎下垂体機能低下症がもたらすQOLの低下は看過できないものがある.また薬物療法の発展(文献6),MRI撮像法の発展も期待出来るので,inconclusive/normal MRIのクッシング病の治療方針に関しては,まだまだ丁寧な議論が必要である.

執筆者: 

木下康之   

監修者: 

有田和徳

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