下垂体腺腫を下垂体神経内分泌腫瘍(pit-NET)と言い換えることに反対する:世界の内分泌医からの抗議

公開日:

2020年1月27日  

最終更新日:

2020年1月30日

A tale of pituitary adenomas: to NET or not to NET : Pituitary Society position statement.

Author:

Ho KKY  et al.

Affiliation:

The Garvan Institute of Medical Research, St. Vincents Hospital, The University of New South Wales, Sydney, Australia

⇒ PubMedで読む[PMID:31571098]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2019 Dec
巻数:22(6)
開始ページ:569

【背景】

下垂体腺腫は,必ずしも腺腫(adenoma)という名前が示すような良性ではなく,浸潤性,転移を示すことがあり,死に至ることもある.また,下垂体ホルモン産生細胞は広い意味で神経内分泌細胞に含まれる.したがって,同じような臨床的多様性を示す,膵臓などに出来る神経内分泌腫瘍(NET)と同じ名称にすべきという提案が,2016年のInternational Pituitary Pathology Club (Annecy,France)で賛成多数で承認され,2017年に報告された(文献1).本論文はこの下垂体神経内分泌腫瘍(pit-NET)とういう概念に対する反論である.

【結論】

反論の要点は,①“腺腫”という言葉は腫瘍の起源(腺細胞)を明示していたのに,pit-NETの“tumor:腫瘍”では発生起源細胞を明示しない.②下垂体細胞が神経内分泌細胞であるという根拠が示されていない.③下垂体腺腫は剖検例の10%で発見されるが,その99.9%は無症状(indolent)である.④臨床例における下垂体腺腫でもNETに相当するアグレッシブな性質を示す異型性下垂体腺腫は10%に過ぎず,転移を示すものは0.2%と極めてまれである.⑤過去に真のpit-NETが8例報告されているが,下垂体腺腫の臨床像とは大きく異なっている.

【評価】

下垂体腺腫は高頻度で周囲組織に浸潤し(40%),中には急速に成長するもの,再発を繰り返すものもある(>10%).稀ながら転移を示すものもある(下垂体癌).また,ホルモン過剰症による重篤な症状を呈し,場合によっては死をもたらすものもある.このような腫瘍を,良性かつ限局性で予後良好なイメージを伴う“腺腫(adenoma)”という概念でひとくくりすることは時に困難である.さらに,下垂体腺腫の患者は癌登録の対象でもないし,癌患者が得られる適切な治療や医療保険上の給付から排除されてきたという現実がある.
そこで,同様に内分泌学的な多様性(機能性も非機能性もある),生物学的な多様性(癌ではなくても浸潤や転移がある),臨床的な多様性を示す膵臓や消化管に出来る神経内分泌腫瘍(NET)と同じネーミングにすべきではないかという考え方が以前から存在していた.主として病理医が集まった2016年のInternational Pituitary Pathology Club Meeting(Annecy,France)では,この考え方が支持され,従来の下垂体腺腫を下垂体神経内分泌腫瘍(pit-NET)と呼ぶことを議決した(文献1).この考えは,その後,国際がん研究機関(IARC)でも支持された(文献2).
一方,この反論論文の筆頭著者はオーストラリアの内分泌内科医のHo KKYであり,また共著者にはMelmed Sなど,世界の著名な内分泌内科医が名を連ねている.本文中では,上記の5項目の反論主旨以外に,⑥神経内分泌細胞の性質(NSEやシナプトフィジン陽性など)を有し、かつ下垂体腺腫と同様、稀に臨床的・病理学的な悪性像を示す甲状腺濾胞腺腫や副腎皮質腺腫はNETには含まれていないという矛盾も指摘されている.
結論として,International Pituitary Pathology Clubが提案した新しい名称(pit-NET)は,より大きな混乱を招き,患者の意思決定に役立たず,むしろ不要な心配を引き起こすと述べている.
確かに本邦の統計でも,膵NETの45%は診断時に遠隔転移が認められ,5年生存率は約40%であり大腸癌より悪い(文献2).一方,下垂体腺腫(pit-NET)では臨床経過中に転移が認められるのは0.2~0.4%であり(文献3,4),剖検での偶発例まで入れると,下垂体腺腫のうちアグレッシブな性質を有するものは0.006%に過ぎない.膵NETと比較してその生物学的悪性度には歴然とした違いがある.こういう事実を考慮すれば,pit-NETをめぐる議論はMelmed Sら内分泌内科医の方に分がありそうである.
しかし,本論文の発表3ヵ月後には,同じ"Pituitary誌"にトロント大学のSylvia Asaらの反論が掲載されている(文献5).まだまだバトルは続く.

執筆者: 

有田和徳

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