斜台部脊索腫の治療,過去20年間の変遷:イタリア10施設の多施設共同研究

公開日:

2020年9月23日  

最終更新日:

2020年9月28日

The management of clival chordomas: an Italian multicentric study

Author:

Cappabianca P  et al.

Affiliation:

Department of Neurosciences and Reproductive and Odontostomatological Sciences, Division of Neurosurgery, University of Napoli “Federico II”, Naples, Italy

⇒ PubMedで読む[PMID:32886913]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2020 Sep
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

頭蓋底腫瘍に対する内視鏡下経鼻経斜台手術(EETA)が徐々に普及している.ナポリ大学のCappabiancaらは,過去20年間(前半期1999~2008,後半期2009~2018)にイタリアの主要10施設で手術された斜台部脊索腫182例(うち153例[83%]がEETAによる手術)を後方視的に解析し,治療モダリティーと治療転帰の変遷を解析した.前半期に比較して,後半期ではEETAが増え(23.2→76.8%),その他,術中ナビゲーション,ドップラー超音波装置の使用が増加した.陽子線治療は115例(63.2%)に施行され,後半期に多かった(23.5→76.5%).平均追跡期間は62ヵ月.

【結論】

全182例で,肉眼的全摘(GTR)は93例(51.1%)で達成でき,GTRの割合は後半期で向上した(12.9→87.1%,p<0.001).手術後,27例(14.8%)で受診時の症状・徴候が悪化し,Katzの日常動作スケールは10例(5.5%)で悪化した.26例(14.3%)で術後合併症が認められ,内訳は髄液漏9例,頭蓋内出血7例,髄膜炎5例,虚血性脳損傷5例であった.5年PFS,5年OSはそれぞれ62.3%と73.5%であった.多変量解析では,GTR,EETA手術,陽子線治療,chondroid typeの亜型は良好な生存期間と有意に相関した.

【評価】

Brain Tumor Registry of Japan(2005~2008)によると,脊索腫は全脳腫瘍の0.5%に過ぎない極めて稀な腫瘍であり(文献1),単施設での予後因子の解析は困難である.今回イタリアの主要な脳外科10施設で過去20年間に経験した182症例を検討することで,GTR,EETA手術,陽子線治療,chondroid typeが予後良好因子であることを示した.
このシリーズの中で症例数が最も多いのはMazzatenta率いるボローニャ大学で78例(42.8%)を登録している.
ボローニャ大学からは既にZoliらが2018年,65症例に対するEETA手術を含む治療の成績を発表している(文献2).この中では,GTR達成は58.7%で,GTR達成と相関する因子は初回治療,病変の位置が斜台上1/3あるいは中1/3,硬膜外病変そして病理所見がconventional(=classical) chordomaであった.5年生存率は77%,10年生存率は57%であった.
Cappabiancaらの本研究で興味深いのは,前期10年に比較して後期10年ではEETAが急速に増え(23.2→76.8%),ニューロナビゲーション,ドップラー超音波装置の利用も増えていることである.これらの活用がGTRを後半期で向上させた(12.9→87.1%)主要な要因と思われる.また,後半期では陽子線治療も増加している(23.5→76.5%).今後,これらの治療モダリティーが斜台部脊索腫に対するスタンダードとして定着するように思われるが,そのためには国際的な前向き研究が欠かせない.
組織形に関しては,chondroid typeが生命予後良好因子であること(文献3,4)は従来の報告に一致していた.脊索腫に対する陽子線治療の有用性も既に報告されているが(文献5),本シリーズではGTR+陽子線治療群では5年PFSは90%,5年OSは95%に達していた.また手術が亜全摘あるいは部分摘出に終わっても陽子線治療を受ければOSはGTR単独群に匹敵するようである.
本邦でも頭頸部悪性腫瘍に対する陽子線治療は2018年4月から保険適応になっている.
一方,斜台部脊索腫に対する陽子線治療による側頭葉壊死,視力低下,聴力低下や腫瘍の悪性化例も報告されており(文献5,6),至適な放射線量の設定はこれからの課題と思われる.

【監修者コメント】
近年の内視鏡下経鼻頭蓋底手術の進歩による恩恵を最も受けているのがこの脊索腫の治療である.
特に陽子線治療との組み合わせにより,摘出率,合併症,PFS,OSなど全ての面で治療成績は著明に向上している.
北米もそうであるが, 世界的には,このような特殊なrare cancerに対するハイボリュームセンターでの集学的治療(EETAと陽子線の組み合わせ)はほぼ確立している.本邦でもそのようなシステム作りが望まれる.

執筆者: 

藤尾信吾   

監修者: 

西岡宏

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