慢性オピオイド使用者における視床下部下垂体性の副腎機能不全の頻度は約10%:メイヨークリニック

公開日:

2020年11月23日  

Prevalence of Opioid-Induced Adrenal Insufficiency in Patients Taking Chronic Opioids

Author:

Li T  et al.

Affiliation:

Division of Endocrinology, Diabetes and Nutrition, Department of Internal Medicine, Mayo Clinic, Rochester, Minnesota, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:32866966]

ジャーナル名:J Clin Endocrinol Metab.
発行年月:2020 Oct
巻数:105(10)
開始ページ:dgaa499

【背景】

癌性や非癌性慢性疼痛に対するオピオイドの使用量は世界中で益々増加している.オピオイドは視床下部-下垂体-副腎系を抑制するが(文献1,2),臨床現場でのオピオイド誘発副腎機能不全(OIAI)の有病率は明らかではない.メイヨークリニックのLiらはペイン・リハビリセンターに入院した非癌性疼痛に対するオピオイド慢性使用患者連続102例の前向き登録研究でその頻度を求めた.対象患者にスクリーニング検査(早朝コルチゾル,ACTH,DHEAS測定)を行い,異常値を呈した患者にコシントロピン(合成ACTH製剤)負荷試験を行い,血中コルチゾルの低反応(頂値<18 μg/dL)をもってOIAIと判定した.

【結論】

オピオイド使用量中央値はモルヒネ換算値(MME)/日で60 mg(3~840),使用期間は60ヵ月(3~360).スクリーニング検査での異常は10.8%で,OIAIと診断されたのは9%(9名)であった.OIAI患者では非OIAI患者に比較してMME/日と(140 vs 57 mg,p=0.1),過去の総摂取MMEが高かった(13,440 vs 3,120 mg,p=0.03).MME/日<20 mgの患者にはOIAIはいなかった.MME/日>20 mgのカットオフでのOIAIの特異度は19%であった.OIAI患者9名中7名がオピオイドを中止でき,そのうち6名で副腎機能が回復した.

【評価】

医療用オピオイドの使用は次第に蔓延しており,米国だけでも年間42,000人のオピオイド関連死亡が報告されている.慢性的なオピオイド使用の副作用は便秘,嘔気,消化不良から内分泌障害まで広範である.
オピオイドは視床下部に作用して下垂体機能を抑制することが知られている.オピオイドによる下垂体機能障害のうち最も多いのはゴナドトロピン障害で,男性で75~89%,女性で23~67%と報告されている.下垂体-副腎系に関しても,その発生は報告されており,中には副腎クリーゼを来した症例の報告もある.ただし,研究によって,診断基準,対象患者の設定がまちまちであるため,報告された頻度は8~50%と幅広い(最近のメタアナリシスでは15%)(文献1).
本研究では,前向き登録研究でスクリーニング検査(早朝コルチゾル,ACTH,DHEAS測定)とコシントロピン負荷試験というシステマティックな方法で副腎機能を評価したところ,慢性的なオピオイド使用者の9%にOIAIが認められる事,OIAIはMME/日<20 mgでは起こらず,MME/日>20 mgでは19%に起こることが明らかになった.対象となった102例のオピオイド使用の理由は,腰痛37%,四肢の痛み22%,頭痛10%,線維筋痛症9%であった.使用されているオピオイドの種類はオキシコドン45%,ハイドロコドン32%,フェンタニルパッチ19%,トラマドール16%で,約4割の患者が複数のオピオイドを同時に使用していた.
この結果を受けて著者らは,MME/日>20 mgの患者,特に長期大量の使用患者ではOIAIの発生を厳密にモニターしなければならないと結論している.OIAIと診断されれば,本研究対象患者でもそうであるが,当然ハイドロコーチゾンの補充は必須となる.
本研究のもう一つのポイントは,ペイン・リハビリテーションによって,オピオイドを中止することが出来た患者の多く(6人/7人)で副腎機能が回復し,ハイドロコルチゾンの補充が不要になることを示した点である.体系的なペイン・リハビリテーションによって漫然としたオピオイド使用が中止出来ることも重要な情報である.
ちなみに日本でも良く用いられているトラマドール100 mg(ワントラム)のMMEは10で,トラムセット配合錠に含まれているトラマドールは37.5 mg(MME:3.75)である.MME/日>20はそれほど高くない閾値である.
ひとつだけ,本研究の問題点を指摘するとすれば,下垂体-副腎系機能の評価をコシントロピン(合成ACTH製剤)負荷試験で行っており,ゴールドスタンダードであるインスリン低血糖負荷試験(ITT)を用いていないことである.もしかするとOIAIの頻度を過小評価しているかも知れない.ただ,最近欧米では,低血糖リスクを伴うITTは次第に行われなくなっており,致し方がないことかも知れない.

【コメント】
米国医療におけるオピオイドの使用頻度が非常に高いことはよく知られており,本研究もMayo Clinicからのものである.果たして米国以外にこの手の研究が成立する国がどれくらいあるのだろうか?
論文の本旨からは逸れるが,医療用オピオイドについてWikipediaの出典からたどり着いたNew York誌の記事は興味深い(URL:https://nymag.com/intelligencer/2018/02/americas-opioid-epidemic.html).一般誌からの記事であり,記載されている数字に対する引用元が明示されていないことを前提に読む必要はあるが,世界の99%のハイドロコドン,81%のオキシコドンは米国で消費され,人口から予測される需要量の実に30倍の医療用オピオイドが米国内で消費され,1999年から2011年の間にオキシコドンの処方量は6倍に増加したとされる.患者が痛みからの解放を求めて医師を訪れたら,痛みの原因を特定するよりもオピオイドによって痛みを止める方が手っ取り早く,効率的で,結果として処方量急増につながっていると記事の著者は考察している.その背景には,“managed care”(管理,システム化された医療)の名の下に医師が素早く痛みに対処しなければならない,というプレッシャーがあるという.
本論文に話を戻すと,オピオイド使用の理由のうち腰痛と四肢の痛みが全体の約60%を占めていることは興味深い.おそらくその多くに脊椎疾患とその手術治療が関連していると思われる.米国では日本のように脊椎手術を受けて,創部痛が落ち着くまでNSAIDsと安静で退院の時がくるのを「待つ」という文化や考えが医療者側,患者側にも乏しい.また,NSAIDsが脊椎手術に必要な術後の骨癒合を妨げるという考えから,その投与が忌避される傾向にもある.患者側の術後の痛み管理に対する期待度も非常に高く,当然オピオイドが術後疼痛管理の主役となるため,今後もオピオイド使用が劇的に減る可能性は低いのではないだろうか.
University of Iowa 脳神経外科 山口智

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

山口智

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