TSH産生下垂体腺腫におけるTSH/甲状腺ホルモンの周術期ダイナミクス

公開日:

2020年12月28日  

最終更新日:

2020年12月29日

Clinical characteristics and thyroid hormone dynamics of thyrotropin-secreting pituitary adenomas at a single institution

Author:

Taguchi A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:33283257]

ジャーナル名:Endocrine.
発行年月:2020 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

TSH産生下垂体腺腫における手術後のTSH-甲状腺ホルモンの動的変化(ダイナミクス)については詳細にはわかっていない.これは主として同腫瘍の頻度が低いためであるが,広島大学のTaguchiらは,過去15年に手術した下垂体腺腫597例の中からTSH産生腺腫11例(1.8%)を抽出して,TSH産生腺腫における手術後3ヵ月間のTSH/甲状腺ホルモンのダイナミクスについて検討した.対照は2019年に手術した非機能性下垂体腺腫の連続24例.非機能性下垂体腺腫ではTSH/FT3/FT4は,術後1日目で軽度低下して4日目には正常化した.

【結論】

TSH産生腺腫では,TSHは手術後1日目で正常下限以下まで急激に低下し,手術後7日目以降には徐々に改善し,術後3ヵ月目には正常範囲内に入った.
FT3も術後1日目には著明に低下したが,正常範囲内であり,その後も正常範囲内にとどまった.
FT4は手術後21日まで緩徐に低下し,その後手術後3ヵ月までに徐々に上昇し,術後3ヵ月目には正常範囲内に入った.
術後甲状腺ホルモン補充が必要となった症例はなかった.

【評価】

本研究は,TSH産生腺腫の患者では手術翌日のTSH値は正常下限(0.5 μIU/mL)を下回って急激に低下(中央値0.24 μIU/mL,IQR 0.16~0.37)することを示した.これは,手術前のTSH過剰によって正常下垂体のTSH産生細胞に強いネガティブフィードバックがかかっているためで,このようなTSH値の極端な低下は非機能性下垂体腺腫では見られない.この強いTSH分泌抑制は,術前のネガティブフィードバックの影響が取れる手術後7日目くらいまで持続して,その後徐々に改善,手術後3ヵ月までには,TSH値は正常に復する.この動きはちょうどACTH産生腺腫で,手術後にACTH-cortisolの分泌が極端に低下して,続発性副腎不全を引き起こすのと同様である.また,TSH産生腺腫の患者では手術後のTSH値が,ACTH産生腺腫の患者では手術後のACTH-cortisol値が少なくとも正常下限近くまで低下しない場合は,長期的には再発することが知られている(文献1,2).
一方,TSHの半減期が約1時間であるのに対してT4の半減期は5-7日であるので,腫瘍摘出後のT4の低下はゆっくりで,術後1週間目に最低となる.その後徐々に上昇し正常化するが,このT4低値に対しては,約1割のケースで術後1~2ヵ月間のT4補充が必要になる(文献3).本シリーズ(11例)ではT4補充が必要になった症例はなかったというが,その理由は明らかではない.症例数を重ねて検討すべきテーマである.
本研究では,手術後TRH負荷試験に対するTSHの増加反応を示す症例が手術後に増加すること(術前20%,術後77.8%)も示されている.
また,TSH+GH産生腺腫では,GH過剰がTSH分泌を抑制するため,TSH単独産生腺腫に比較して術前のTSHならびにFT4値が低く,逆に手術後1日目において,FT4値が軽度上昇することも記載されており,ユニークな発見である.
今後,より多数例を対象にTSH/FT3/FT4の周術期ダイナミクスと長期予後との関係を明らかにすることが重要である. これを通して,10年~20年の寛解を保証し得る術後TSHの閾値はどこか,TRHの反応性の回復は長期寛解の指標となるのかなどを明らかにしていただきたい.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

木下康之