トルコ鞍空洞症による視機能悪化に対する視交叉固定術(Chiasmapexy)の効果を左右する因子

公開日:

2020年12月29日  

最終更新日:

2021年1月2日

Chiasmapexy for secondary empty sella syndrome: diagnostic and therapeutic considerations

Author:

Graillon T  et al.

Affiliation:

Neurosurgery Department, Aix-Marseille Univ, APHM, CHU Timone, Marseille, France

⇒ PubMedで読む[PMID:33136230]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2020 Nov
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

下垂体の腫瘍性病変の治療後に生じるトルコ鞍空洞に視交叉が陥入(視交叉ヘルニア)し,視機能が低下することがある.これに対して視交叉固定術が行われているが,その効果は必ずしも一定していない.エクス-マルセイユ大学のGraillonらは自験例を報告するとともに,既報の視交叉固定術実施24例を基に,視交叉固定術の効果を左右する因子を検討した.自験例は巨大な非機能性下垂体腺腫,のう胞性マクロプロラクチノーマ,トルコ鞍部くも膜のう胞の3例で,経蝶形骨洞的に視交叉固定術が施行された.1例はトルコ鞍内に挿入した脂肪組織の早期吸収のため再手術が必要であった.1例で視機能が部分回復し,2例では不変であった.

【結論】

自験の3例を含めた既報の視交叉固定術例の24例では67%が経蝶形骨洞法で施行されているが,最近10年間は殆どが経蝶形骨洞法である.治療結果は,視機能完全回復6例(25%),部分回復16例(67%),不変2例(8%)であった.年齢と視機能障害の強さが,視機能の完全回復と有意に,あるいは強い傾向で相関した(p=0.02,p=0.056).手術方法は視機能の回復と相関していなかった.視神経萎縮がある眼では視機能の改善は得られなかった.
したがって,進行性の視機能障害例には早期治療の必要性が示唆されるが,既に強い視機能障害がある例ではリスク-ベネフィットが十分に考慮されるべきである.

【評価】

著者等は,トルコ鞍空洞への視交叉の陥入による視機能低下の原因について瘢痕組織による視交叉の牽引,またそれによる微小血流の障害/虚血の他,独自の視点として,視神経の視神経管部と脳槽部移行部での強い折れ曲がりや眼動脈や前大脳動脈(文献1)による局所的な圧迫の可能性を示唆している.手術のタイミングの判断では進行性の視機能低下が重要であるが,自覚的な視機能低下が現れる以前の光干渉断層像(OCT)による網膜神経線維層(NFL)や神経節細胞層(GCL)の菲薄化(文献2)の検出に基づいた,より早期の介入による視機能障害回避の可能性を示唆している.
手術ルートとしては,最近は経蝶形骨洞手術が主流であるが,硬膜内に進入して癒着の解除(untethering)まで行うか(文献3),硬膜外にとどまってトルコ鞍内パッキングで終わるかは意見の分かれるところである.また,著者らは血管による視神経への圧迫(neurovascular conflict)が関与しているのであれば,開頭による減圧も考慮すべきとしている.
視交叉挙上の目的で使用するパッキング材料として,様々な生体,人工材料が使用されている.著者ら自験の3症例では脂肪組織を挿入しているが,2例では早期に吸収されており,一例で自家骨を用いた再手術が行われている.
下垂体病変治療後のトルコ鞍空洞への視交叉ヘルニアによる視機能障害に対する治療の報告はまだ限られており,視交叉固定術の適応,手術手技も確立されてはいない.更なる症例蓄積が必要である.

執筆者: 

有田和徳