下垂体腺腫患者におけるOCTでの網膜神経線維層(RNFL)の厚みと術後視野の相関

公開日:

2021年1月25日  

最終更新日:

2021年3月5日

Optical Coherent Tomography Predicts Long-Term Visual Outcome of Pituitary Adenoma Surgery: New Perspectives From a 5-Year Follow-up Study

Author:

Chung YS  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Yonsei University College of Medicine, Seoul, Republic of Korea

⇒ PubMedで読む[PMID:32735666]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2020 Dec
巻数:88(1)
開始ページ:106

【背景】

下垂体腺腫患者における術後視機能回復の予測因子は何か.延世大学のChungらは視野障害を有する下垂体腺腫患者のうち,術前に光干渉断層(OCT)検査が施行され,かつ手術前後にハンフリー検査(HVF)で視野が評価された患者を対象に,この課題に答えた.HVFの視野インデックス(VFI値)が測定されたのは113例で,平均偏差(MD値)が測定されたのは155例であった.OCTにおける網膜神経線維層(RNFL)の厚みは,性・年齢を一致させた健常者の5パーセンタイル順位以下を薄い(83例),それ以上を正常(90例)と判断した.

【結論】

術前のVFIとMDはRNFLと直線相関した.RNFLの薄い群でも正常群でも,手術後の視野はVFI値,MD値ともに継続的にゆっくり改善した.改善率は両群で差はなかった.RNFLは手術後36ヵ月までゆっくり菲薄化が進行したが(80.2±13.3→66.6±11.9 μm),視野はその間継続して徐々に改善した(VFI,61.8±24.5→84.3±15.4%;MD,−12.9±7.3 dB→−6.3±5.9 dB).

【評価】

従来,視神経萎縮が進んだ視交叉部腫瘍の患者では術後視野の改善は乏しく,また遅延することが報告されているが(文献1),本研究は,RNFLの薄い群でも正常群でも手術後徐々に視野(VFI値あるいはMD値)は改善し,その改善の割合には差がないことを示した.また一方,視野の改善とは乖離して,RNFLは手術後も徐々に薄くなることを示した.もちろん,最終的に正常な視野を獲得する確率は正常RNFL群で有意に高いことも,本研究で得られた重要な知見である(最終VFI≥95%は正常RNFL群で66.7%,薄いRNFL群で28.0%,p<.001).
また,興味深いのは,RNFLの薄い群でも36ヵ月までVFI値でもMD値でも視野は改善しているのに,60ヵ月では悪化に転じる点である.最近,ライデン大学から治療後長期(中央値11年以上)に経過観察された下垂体腺腫患者ではやはりハンフリー視野検査のMD値が,手術後に一旦上昇した後低下することを報告している(文献2).MD値は年齢毎の標準視野を基準にしているので,この低下は加齢による影響は考えられず,手術後のトルコ鞍空洞への視交叉の落ち込みも関係なかったと報告されている.
この遅発性の視野障害は,本研究で示された,手術後の緩徐ながらも更なるRNFLの菲薄化と何らかの関係があるのかも知れない.手術後の更なるRNFLの菲薄化に関しては,再髄鞘化の遅延(文献3)や虚血の関与なども疑われる.今後多数例での,少なくとも5年以上にわたる連続的で長期にわたるVFI値あるいはMD値のフォローアップを通して解明されるべき課題である.
手術前の視交叉への圧迫の程度やOCT上の神経節細胞層(GCL)の厚みなどとの関係も興味深い.
ちなみに,本研究で用いたMD値,VFI値ともにハンフリー視野(静的視野)検査における視野障害の定量的評価法である.MD値は視野全体の感度低下度を年齢補正の上で,健常者と比較してどのくらい低下しているかを表しており(正常,0デシベル;全視野欠損,−30デシベル),VFI値は,特に中心部分の視野変化を重視した定量的評価方法で(正常,100%;全視野欠損,0%),日常生活への影響の度合いを知ることが出来る.下垂体外科医が知っておかなければならない指標である.

執筆者: 

藤尾信吾   

監修者: 

有田和徳