TSH産生腺腫に対するソマトスタチン作動薬で生じるTSH分泌不全症:その頻度と意義

公開日:

2021年4月26日  

Somatostatin receptor ligands induce TSH deficiency in thyrotropin-secreting pituitary adenoma

Author:

Illouz F  et al.

Affiliation:

Centre de Référence des Maladies Rares de la Thyroïde et des Récepteurs Hormonaux TRH, Angers Cedex, France.

⇒ PubMedで読む[PMID:33112257]

ジャーナル名:Eur J Endocrinol.
発行年月:2021 Jan
巻数:184(1)
開始ページ:1

【背景】

TSH産生下垂体腺腫に対するソマトスタチン作動薬(SRL)の効果は高く,70~100%の症例で甲状腺機能は正常化し,20~70%で腫瘍サイズの縮小が得られるが,まれにTSH分泌不全症(TSHD)の出現が報告されている.本研究はフランス国内11施設による共同研究で,SRLによるTSHDについて後方視的に検討したものである.対象はSRLによる治療が行われたTSH産生腺腫の46例で,そのうち21例では初期治療として用いられた.TSHDはfT4の正常下限以下とTSHの非上昇と定義した(文献1).

【結論】

SRL投与によって36例(78%)で甲状腺機能亢進がコントロールされた.TSHDは7例(15%)で投与開始後中央値4週間(持続型SRL投与1~3回後)で出現し,中央値3ヵ月間持続した.TSHD出現例と非出現例の間には内分泌検査所見,大きさ,SRL投与量などの諸因子の差はなかった.
TSH産生下垂体腺腫に対する持続型SRLの投与においては,TSHDの発生をチェックするため最初の3三回目が投与される前に甲状腺機能をチェックし,TSHDの発生時には,腫瘍の縮小が目的でなければ用量を減じるべきである.

【評価】

これまで,逸話的に報告されてきたSRLによるTSH分泌不全症(TSHD)であるが(文献2,3),本論文によれば15%(7例/46例)と意外に多いことがわかった.ただし,それらの多くは一過性かつ無症状で,3例はSRL投与間隔の延長で対処され,1例のみレボチロキシン(日本ではチラーヂンS)が投与された.
ちなみに対象の46例で使用されたSRLの種類は短時間作用型オクトレオチドが11例(24%),長時間作用型オクトレオチドが20例(43%),長時間作用型ランレオチドが15例(33%)であった.このうちTSHDを呈したのは各1例,4例,2例であった.
SRLはGH産生腺腫の方でより多く使用されているが,そちらではあまりGH(IGF-1)分泌不全が問題になることはないように思う.これは何か.TSH産生腫瘍の方がSRLに対する反応性が高いのか,腫瘍細胞におけるSSTR5発現の程度が違うのか(文献4),SRLが正常下垂体TSH産生細胞も抑制するのか,SRLが甲状腺におけるT4, T3分泌を直接抑制するのか,あるいは逆にGH産生腺腫ではGH低下が必ずしもIGF-1の低下につながらないのか,その背景の解明は今後の課題である.
いずれにしても,本研究はTSH産生下垂体腺腫に対するSRL投与の最初の3ヵ月間は,効果と同時に効き過ぎのチェックのため,fT4, TSHの定期的な測定が必要であることを示している.ちなみに,わが国では長く待たれていたTSH産生腺腫に対するSRLの適応拡大であるが,2020年12月にランレオチドのTSH産生腺腫への効能・効果追加が承認された.
言うまでもないが,たとえTSHDが生じても腫瘍のコントロールのためにSRLを使い続けなければならないケースは存在するであろう.そのような場合はレボチロキシンを同時に使用するか,SRLをやめて手術療法の可能性を探るということになる.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

島津章、藤尾信吾