GnRH作動薬による下垂体卒中:ハーバード大学関連2病院の7例と29例の文献レビュー

公開日:

2021年5月21日  

GnRH agonist-associated pituitary apoplexy: a case series and review of the literature

Author:

Guarda FJ   et al.

Affiliation:

Neuroendocrine Unit, Massachusetts General Hospital and Department of Medicine, Harvard Medical School, MA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33835355]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2021 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

GnRHa(ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬)は前立腺癌,子宮内膜症,不妊などの治療目的で使用されている(文献1,2).GnRHa投与による下垂体卒中は良く知られているが(文献3,4),その臨床像は詳細ではない.本研究はハーバード大学関連2病院(MGHとBWH)で過去30年間にGnRHaが投与された31,064症例のデータベースから下垂体卒中を発症した7症例(0.02%)を抽出して解析している.GnRHaは男性6名(中央値72歳)で前立腺癌に対して,女性1名(22歳)で排卵誘発(卵子提供)目的で投与された.いずれも事前に下垂体腺腫の診断は得られていない.

【結論】

抗血栓薬は4例で使用されていた.4例が高血圧を有していた.5例では初回投与から24時間以内に,2例は1~5ヵ月で発症した.
既報の29例のレビューでは,GnRHa投与の理由は25例の男性(54~85歳)では大部分が前立腺癌で2例が下垂体負荷試験であった.4例の女性(22~46歳)では排卵誘発2例,子宮筋腫1例,無月経1例であった.投与から発症までは63%で24時間以内,30%が2週間以内,7.4%が2ヵ月を超えていた.頭痛は100%,眼球運動麻痺は55%,視野障害は58%,意識障害は58%で認められた.摘出手術を受けた23例(79%)中18例(78%)の腺腫がゴナドトロピン陽性であった.

【評価】

過去の報告29例と本ケースシリーズ7例をまとめると,下垂体卒中を誘発するに至ったGnRHa投与の理由の大部分は前立腺癌の治療で,その他,産科/婦人科的な理由,下垂体負荷試験,思春期早発症などがある.
GnRHa投与による下垂体卒中誘発の原因は不明であるが,その血管拡張作用によって腫瘍内血流の増加から腫瘍内出血に至る可能性(文献4)以外に,GnRHaが腫瘍内ゴナドトロピン産生細胞の代謝を刺激し,腫瘍体積の増大,トルコ内鞍圧の上昇を引き起こすことによって広範な腫瘍内梗塞を惹起する可能性(文献5,6)などが考慮されている.実際,非機能性下垂体腺腫の80~90%にゴナドトロピン産生細胞が存在している.
既報のGnRHa投与による下垂体卒中は年齢中央値が70歳(IQR:62~77)と高く,高血圧,糖尿病,冠動脈疾患の合併が多く,抗血栓剤内服患者が多い.
女性例の報告は本シリーズの1例も含めて過去に5例のみであるが,このうち2例で排卵誘発(卵子提供)目的でGnRHaが投与され,結果として少なくとも1例では長期にわたる汎下垂体機能不全を後遺している.卵子提供という人道主義的行為に伴うリスクを喚起するものとなっている.
一方,GnRHa投与による下垂体卒中の頻度が0.02%と極めて稀であることを考慮すれば,同剤投与が予定されている患者にスクリーニングとして下垂体MRIを行うことは費用/効果の観点からは推奨出来ない. しかし,過去に頭部MRIが撮影されていれば,改めて見直すべきであり,もし既知の下垂体マクロアデノーマがあればGnRHa投与に際して厳密なモニターを行うべきであるという著者等の結論は妥当なものである.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

藤尾信吾