下垂体卒中は保存的治療で充分か:バージニア大学64例の解析

公開日:

2021年5月21日  

最終更新日:

2021年5月21日

Radiological and clinical outcomes of pituitary apoplexy: comparison of conservative management versus early surgical intervention

Author:

Shepard MJ  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University of Virginia Health System, Charlottesville, Virginia, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33930863]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Apr
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

下垂体卒中は一般に早期手術の対象と考えられているが(文献1,2),かなりの割合の患者で保存的治療で充分ではないかという議論がある(文献3,4).バージニア大学のチームは自験の下垂体卒中64例を後方視的に解析してこの問題を検討した.早期(1週間以内)手術群は17例(26.6%),保存的治療群は47例(73.4%).早期手術群で有意に多かったのは視力障害,視野障害,脳神経症状であった(65 vs. 28%,65 vs. 19%,59 vs. 30%,いずれもp<.05).腫瘍体積も早期手術群で大きかった(15.1 vs. 4.5 cm3,p<.001).

【結論】

視力・視野障害を呈した症例における視機能改善の程度や改善までの期間は2群間で差はなかった.新規内分泌症状の出現に差はなかった(保存群60%,早期手術群53%).一方,他の脳神経症状の改善率は保存的治療群の方が高かった(HR 4.8,p<.01).保存的治療群47例のうち7例(14.9%)では治療が失敗し晩期手術が行われた.若年,女性,視野障害,視交叉圧迫は保存的治療の失敗と有意に関連した(単変量解析でp<.05).保存的治療が継続された40例中38例(95%)で腫瘍体積が自然に縮小し,6ヵ月間の腫瘍縮小率は66.2%であった.早期手術群と晩期手術群で手術転帰に差はなかった.

【評価】

最近のガイドラインでは初療時の電解質,代謝,循環動態のコントロールならびに初期ステロイド投与に関しての合意はあるが(文献5),それ以降の手術治療の適用に関してはまだ議論が続いている.
本研究は2007年1月から2019年2月までにバージニア大学病院を受診した下垂体卒中患者の前向き登録データベースの後ろ向き研究であるが,まず気がつくのは,早期手術の対象とされたのが下垂体卒中症例全体の約1/4とかなり限られていることである.
手術群の少なさの背景にあるのは,この施設では下垂体卒中患者でも原則として保存的に治療していたことがある.たとえ,視機能障害や脳神経症状があっても,まずは高用量のステロイドが投与され,それでも視機能や脳神経症状が悪化する場合にのみ1週間以内に内視鏡下経蝶形骨洞手術が行われている(早期手術群).その結果,47例が保存的に加療される結果となっている(保存的治療群).
当然ながら早期手術群の方が,視機能障害,脳神経障害,視交叉圧迫の頻度が有意に高く,腫瘍体積が有意に大きい.
中央値35.5ヵ月のこの後方視的研究では2群間で視機能改善程度と改善までの期間には差がないことを明らかにした.また,本研究が行われた段階で,視覚に関連した健康関連QOLスコアであるVFQ-25への回答を全例に依頼したところ,27例(保存的治療群19例,早期手術群8例)で回答が得られているが,このスコアは2群間でほぼ同一であった(平均値95.5 vs. 93.2).
実際には,当初保存的治療が開始された47例中7例(14.9%)で,中央値50日(17~81日)で手術が行われている.この保存的治療の失敗の理由は3例が画像所見の改善が得られなかったこと,1例が下垂体卒中の再発,3例が視機能の悪化であった.
本研究は保存的治療群の割合が73.4%と過去に報告されたシリーズの中で最大のものの1つであるが,視機能障害を呈した患者でも高用量ステロイド投与によって大部分(視野障害で89%,視力障害で83%)が改善を示すことを明らかにした.視機能改善までの期間中央値は2~3ヵ月である.視神経以外の脳神経症状の改善率が保存的治療群の方で高かったのは,早期手術群でその障害が強かったためかも知れない.
著者らは,この結果を受けて,視機能障害が強いか進行性である場合を除く大部分の症例では保存的な治療が実行可能な治療戦略であると結論している.

<コメント>
以前は下垂体卒中の多くは緊急手術の適用とされていたが,手術群と保存的治療群の長期治療成績に有意な差を認めないとする報告が近年多く,現在外科治療の適用は議論の多いところである.英国ガイドラインでは,①意識障害や視機能障害のない卒中例には保存的治療,②高度の意識障害や視力視野障害があれば手術適応,③眼球運動障害のみの場合は緊急手術の意義は乏しいとしている.手術を行う場合は発症後7日以内を推奨している.またガイドラインでは意識レベル,視力,視野と眼球運動の各障害程度によるスコア化が提唱されている.手術を行った場合には組織検査も重要である.血腫の間や凝固壊死した腺腫の辺縁に存在する生存腺腫細胞は再発の土壌となる.また凝固壊死した腺腫細胞に免疫組織化学でホルモンを同定できることが多く,組織型診断にも有用である.なお現在,Pituitary apoplexy Surgical Timing & Outcomes Registry (PASTOR)という米国を中心とした国際多施設共同レジストリーが進行中でまもなくその結果が明らかになると思われる.(西岡宏)

<コメント>
2群間で新規内分泌機能障害の発症頻度に差はなかったと記載はされているが,診断される時期や障害の重症度,QOLに及ぼす影響などには言及されていない.英国ガイドラインでは,意識障害,視力障害,視野障害,脳神経麻痺の4項目からなる下垂体卒中急性期におけるスコアリング(PAS)が提唱されている(文献5).英国の3施設(ロンドン Clin End 2011; 75: 723,リバプール Clin End 2014; 80:419,マンチェスター Clin End 2016; 83:415)からPASの有用性に関する研究結果が報告され,最近フランスのリヨン(Endocrine 2021; 71:168)からも報告されている.いずれも後ろ向き研究であるが,スコア4以上で早期手術が選択されることが多いことが示されている.専門施設ではPASスコアに頼らず判断できるものの,非専門施設においては急性期の治療方針の判断にPASスコアが役立つかもしれない.(島津章)

<コメント>
外眼筋麻痺や頭痛だけの症例は,確かに待機中に症状が消失することがしばしば経験される.ただ,当初視機能障害がなくても視交叉の圧迫があるような症例では症状が出現することがあるので,視機能障害がなければ保存的治療と決めてしまうのもリスクがあるように思われる.また,外眼筋麻痺も進行性のものや高度のものでは早めに神経を減圧した方が回復は早いという報告もあるので,手術の選択枝は残しておきたい.下垂体外科医の立場からは卒中発症後時間がたつと瘢痕性の変化がでて,手術がやりづらい印象はあり,手術時期と手術の難易度という観点からの検討は必要かも知れない.(阿久津博義,藤尾信吾)

<コメント>
下垂体卒中の大部分は腺腫の出血性梗塞であるから,ステロイドの大量投与で急性期をしのぐことが出来れば,腺腫は次第に縮小し脳神経症状が自然に改善するのは当然であり,著者等の主張は了解可能である.ただし気になるのは,本研究では包括的で系統的な内分泌学的評価,総合的なQOLの評価が欠落していることである.成長ホルモン,ゴナドトロピンを含む下垂体前葉機能は2群間で差がないのか,今後の研究課題である.また,急性期下垂体卒中に伴う頭痛は時に耐えがたいものであり,一方手術による改善効果は顕著である.そうした患者のケアをどうしているのか,大量のオピオイドを使用しているのであろうか.待機患者群における不安がQOLに与える影響も知りたいところである.(有田和徳)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

西岡宏, 島津章, 阿久津博義,藤尾信吾