4 cmを超える巨大な頭蓋咽頭腫の治療

公開日:

2021年5月31日  

最終更新日:

2021年5月31日

The implication of giant tumor size on surgical resection, oncological, and functional outcomes in craniopharyngioma

Author:

Sadhasivam S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, All India Institute of Medical Science, Rishikesh, Uttarakhand, India

⇒ PubMedで読む[PMID:32451987]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2020 Oct
巻数:23(5)
開始ページ:515

【背景】

全インド医科大学(AIIMS,ニューデリー)脳外科のチームは2001年から15年間で経験した頭蓋咽頭腫176例のうち径が4 cmを超える巨大腫瘍44例(巨大群,25%)を後方視的に解析して,その臨床像を求めた.肉眼的全摘(GTR)は39%,亜全摘(STR)は61%で達成され,11例(25%)はSTRの後に放射線照射(RT)が施行された.術後の新規脳神経症状は27%で,新規運動障害は20%で認められた.
GTR群では17%,STR群のうち非照射症例では38%,STR群の照射症例では9%(1例)で再発が診断された.

【結論】

巨大腫瘍44例のうちGTR,STR,STR+RTの各群で10年PFSは80.8%,45.4%,90%であり,10年OSは86.5%,77.9%,100%であった.非巨大群98例との比較において,巨大群ではGTR率は有意に低く(39 vs. 62%;p=.008),術後の神経脱落症状 (20%),下垂体機能低下(95%),視床下部機能障害(26%) の頻度は有意に高かった(p<.05).再発率は巨大群で短い傾向であったが有意差はなかった(HR1.86;95% CI 0.94~3.68;p=0.07).

【評価】

4 cmを超える巨大頭蓋咽頭腫に対する手術と放射線(25%)による治療後の長期追跡(平均63ヵ月)データである.腫瘍は充実性とのう胞性の両成分からなるものが89%と最多で,手術アプローチは84%がpterionalであった.その結果,巨大群のGTR率は有意に低く,手術後の新規神経機能障害や下垂体機能障害の頻度は巨大群で有意に高かった.にも関わらず,非巨大群に比較して再発には大きな差は認められず,生存期間中央値(MST)も非巨大群140ヵ月に対して巨大群118ヵ月と大きな差はなかった.著者らはこの結果を受けて,手術後の機能障害という点では,頭蓋咽頭腫の巨大さ(>4 cm)は重要な予測因子であるが,再発,PFS,OSに関しては非巨大腫瘍と同等であると結論している.
そうだろうねという結論である.頭蓋咽頭腫の大部分は大きなのう胞成分を含んでおり,のう胞成分の大きさが腫瘍径を左右すると言って良い.実際この巨大頭蓋咽頭腫のシリーズ44例で腫瘍が実質成分のみであったのは1例であった.したがって,手術の早い段階でのう胞内容を除去出来れば,のう胞腔自身が広い操作空間を提供するので,手術はやりやすい場合も多い.もちろん巨大腫瘍では腫瘍被膜の周囲組織への癒着も強くなるので,全摘出は困難になる.本研究のGTR39%という数字は致し方のない成績と思われる.逆に巨大腫瘍にもかかわらず全摘率8割などという過去の報告をみると(文献1,2,3),本当に全ての動静脈,脳神経,視床下部から腫瘍被膜を剥がして除去出来たのかと少し懐疑的になってしまう.本シリーズでは手術死亡は3例でいずれも強い視床下部障害を来している.
一方STR+RT(おそらく外照射)群では再発率9%,10年PFS 90%,10年OS 100%と長期予後はGTR群よりも良好であった.
頭蓋咽頭腫が緩徐に成長するWHO grade1の腫瘍であることを考慮すれば,巨大腫瘍でも重要構造との癒着が強い部分は残して,手術後早期に定位放射線治療というのが現段階では最も妥当な治療戦略のように思われる.
本論文の問題点としては,今日頭蓋咽頭腫の病態を語る時に欠かすことが出来ない遺伝子解析のデータが欠落していることが先ず挙げられるが,その前にadamantinomatous type(ACP)とpapillary type(PCP)という組織学的亜型についてのデータも示されていない.ACPの75〜96%にCTNNB1(βカテニン遺伝子),PCPの95%にBRAF(細胞増殖シグナル蛋白のひとつ)の遺伝子変異が発見される(文献4).また,それぞれの遺伝子変異毎の臨床上,画像上の特徴も報告されている(文献5).巨大頭蓋咽頭腫における遺伝学的な背景を明らかにすることは将来における新規治療戦略の樹立につながる可能性がある.

<コメント>
一般に頭蓋咽頭腫の中でも巨大な腫瘍に対する手術は合併症の頻度が高まることが報告されている.Staged surgeryという手段もあるが,最終的に放射線治療を必要とすることが多い(文献6).BRAF mutationのある頭蓋咽頭腫を術前に予測し,neoadjuvant chemotherapyを施行することが可能になれば,巨大頭蓋咽頭腫も一期的な摘出が可能になるかもしれない.また,ガンマナイフ分割照射の安全性,有効性が確立され,これまで照射困難と思われていた視神経に近接する腫瘍や比較的大型の腫瘍にも定位放射線治療ができるようになりつつある.今後,このような観点から巨大頭蓋咽頭腫に対する外科的治療のあり方を再度検討する必要がある.(藤尾信吾)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

藤尾信吾