Silent corticotroph adenoma(SCA)の臨床像:南カリフォルニア大学での100例の長期観察より

公開日:

2021年6月11日  

最終更新日:

2021年6月12日

Silent corticotroph pituitary adenomas: clinical characteristics, long-term outcomes, and management of disease recurrence

Author:

Strickland BA  et al.

Affiliation:

Departments of Neurological Surgery, University of Southern California, Los Angeles, CA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33962375]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

SCAはACTHには陽性であるがCushing病症状を伴わず,いわゆる非機能性下垂体腺腫に入るが,その病態,予後について充分に明らかではない.南カリフォルニア大学(USC)脳外科は自験のSCA100例を平均35ヵ月追跡し,その他の非機能性下垂体腺腫(NFA)841例と比較してその臨床像を求めた.SCAはNFAに比較して女性が多く(60 vs. 45.8%,p=.007),平均年齢が若く(50.5 vs. 54.6歳,p=.008),脳神経症状(13 vs. 5.7%,p=.005),頭痛(53 vs. 42.3%,p=.042)で発症する頻度が高かった.

【結論】

海綿静脈洞浸潤はやや多く(56 vs. 50%,p=.23),腫瘍径はやや小さく(24 vs. 26 mm,p=.05),Ki67陽性率は有意に高かった(2.9 vs. 1.9%,p=.015).摘出率,再発率,術後増大例(progression)の割合に差はなかったが,PFSは顕著に短かった(24.5 vs. 51.1ヵ月,p=.0011).増大を来した12例のSCAのうちで4例(33%)はその前に定位手術的照射が施行されていた.増大12例中6例は定位手術的照射,再手術,その他の補助療法でも腫瘍のコントロールが得られなかった.

【評価】

2017年に発刊されたWHO classification of tumours of endocrine organs(第4版)(文献1,2)では,corticotroph adenomaをT-pit系統の腫瘍であり,ACTHやその他のproopiomelano-cortin(POMC)由来のペプチドを発現するものと定義した.その中で,silent corticotroph adenomas(SCA)はACTH-cortisol過剰症を伴わないものと定義され,臨床的には非機能性下垂体腺腫に含まれる.SCAは非機能性下垂体腺腫の5〜20%を占めゴナドトロフ非機能性下垂体腺腫に次ぐ頻度である.免疫組織学的にはACTHとT-pitに陽性であるが,ACTHに陰性でT-pit陽性のSCAもあり得る(文献3,4).
本報告はこれまでで最大の症例数によるSCAの臨床像の検討であるが,著者らのSCAの定義は免疫組織学的にACTH陽性で高コルチゾル血症の臨床症状を欠くものとしており,最新のWHOの定義からは逸脱している.したがって,本研究で非機能性下垂体腺腫(NFA)に分類されている腫瘍の中にもまだSCAが含まれている可能性は否定できない.しかし,T-pitが市販されていない現段階で,世界中の多くの施設では,このUSCと同様に,いわば “旧定義” でのSCAを対象に議論しなければならないのが実情である.
本研究は,従来から報告されているように(文献5,6),SCAの患者年齢は比較的若年で,女性が多く,生物学的にアグレッシブで,手術後の増大(progression)までの時間もNFAの半分と短いことを明らかにした.これらの特徴は,SCAの術後残存に対しては綿密な観察と早期の補助療法の必要性を推奨していると結論している.
SCAがNFAに対してアグレッシブな理由は現段階では明らかでないが,ミスマッチ修復酵素MSH6/2やPD-L1のmRNAの低発現が関わっているという日本からの報告がある(文献7).またSCAでは,免疫組織学的にACTHとその前駆体POMCの発現が高いタイプⅠが,それらの発現が低いタイプⅡに比してよりアグレッシブであるという報告もある(文献8).
なお,本シリーズでは残存腫瘍の増大(progression)は中央値24.5ヵ月の経過観察期間で12%で認められているが,他施設からの報告では29ヵ月で27%(UCSF,文献8)あるいは36ヵ月で47%(エモリー大学,GA,文献5)とより高い.この違いの理由については言及されていない.一方,SCAの海綿静脈洞浸潤の頻度は従来の報告では25~40%とされているが,本報告では56%とかなり高い.ただし,NFAでも50%で海綿静脈洞浸潤が認められていることをみると,その判定方法に違いがあるのかも知れない.
本シリーズ100例の中で,定位手術的照射や再手術によっても最終的に腫瘍のコントロールが得られなかった症例は6例(6%)であったが,これらに対するソマトスタチン作動薬やテモゾロミドによる薬物治療の可能性について,今後の検討を期待したい.

<コメント>
臨床的に非機能性でありながらACTH陽性の腺腫はSCAと定義されてきた. 従来からSCAはsubtype 1(大多数の腺腫細胞がACTH陽性:Densely granulated)とsubtype 2(一部の腺腫細胞のみACTH陽性:Sparsely granulated)に分けられていた.日本ではSCAの大多数がsubtype 2であるのに対して欧米ではsubtype 1とsubtype 2がほぼ同頻度とされてきた.この原因は不明(CD[クッシング病]の診断精度の違い?人種差? 免疫組織化学の感度の違い?)であるが,これと関連してSCAの臨床像も本邦と欧米では若干異なっている.Subtype 2は女性に多い,海綿静脈洞浸潤が多い,やや大型の腫瘍が多いことなどが報告されており,ACTH陰性T-pit陽性のSCAもsubtype 2と同様の臨床像を示す.
本論文ではACTH染色性に関する記載は全くなく,またACTH陰性T-pit陽性のSCAも含まれていないのは残念である.現在,編集が進んでいるWHO新分類(第5版)ではこれら定義が十分でない論文はreferenceとして取り上げられなくなっている.脳外科の論文であってももう少し丁寧な対応が望ましい.(西岡宏)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

西岡宏