腫瘍上下径は非機能性下垂体腺腫術後の尿崩症の予測因子である:ソウル大学の168例から

公開日:

2021年6月29日  

Cephalocaudal tumor diameter is a predictor of diabetes insipidus after endoscopic transsphenoidal surgery for non-functioning pituitary adenoma

Author:

Oh H  et al.

Affiliation:

Department of Anesthesiology and Pain Medicine, Seoul National University Hospital, Seoul National University College of Medicine, Seoul, Korea

⇒ PubMedで読む[PMID:33191457]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2021 Jun
巻数:24(3)
開始ページ:303

【背景】

下垂体腺腫手術後の尿崩症はおよそ10~30%の高頻度で認められ(文献1),時に重篤な転帰を招く(文献2).その発生の予測因子は過去の報告では必ずしも一定していない.ソウル大学のチームは最近4年間に経蝶形骨洞手術を行い6ヵ月以上追跡可能であった非機能性下垂体腺腫患者168例を対象に尿崩症発生の予測因子を求めた.術後尿量>5 mL/kg/hrかつNa濃度>145 mmol/Lか連続した2回の検査間でNa濃度が3 mmol/L以上の上昇を示したときに尿崩症と診断した.

【結論】

45.8%が術後に尿崩症と診断され,6.0%が永続性尿崩症(6ヵ月間以上のデスモプレッシンの処方)と診断された.尿崩症発症は術後中央値1日で持続期間中央値は5日間であった.多変量解析では腫瘍の頭尾径が術後尿崩症の唯一の予測因子であった(オッズ比2.59,p=.038).ROC解析では頭尾径のAUCは0.68で,感度+特異度が最大となる頭尾径は2.7 cmで,この径で感度79.2%,特異度47.3%であった.腫瘍がこの大きさを超えると尿崩症の頻度は有意に高くなった(55.6 vs. 28.3%,オッズ比3.16,p=.001).

【評価】

なにを今さらという結論ではある.腫瘍径や腫瘍体積が術後尿崩症の予測因子であるというのは以前から指摘されていた(文献3,4).本研究では頭尾径(cephalocaudal tumor diameter)を取り挙げているが,一般に視機能障害を来し手術適応となる非機能性下垂体腺腫では頭尾径=上下径が最大であるので,これが尿崩症の予測因子であるというのは容易に予測出来る.
ちなみに本研究では,年齢,性,体格,併存症,術前障害ホルモン,腫瘍の三方向の径(頭尾径,前後径,横径),腫瘍体積,視交叉圧迫,海綿静脈洞浸潤,Na濃度の変化,免疫染色所見などが検討されている.単回帰分析ではBMI(高い),大きな腫瘍体積,大きな径(3方向いずれも),長い手術時間,術直後Na濃度上昇などが予測因子として挙がっている.重回帰分析では,頭尾径のみ(p=.038)が残ったというストーリーである.
興味深いのはBMI(高い)が単回帰でp=.010で強い相関を示唆し,重回帰ではp=.072でぎりぎり有意判定にはならなかった点である.著者らは太っていると鼻腔が狭く結果として下垂体や視床下部への障害が強くなる可能性,大きな腺腫では視床下部障害のためにBMIが高くなる可能性を示唆している.
過去の報告で,腫瘍径とBMI以外で独立予測因子として指摘されているのは若年,女性,術中髄液漏などであるが(文献1),本研究では若年,女性は否定されており,術中髄液漏は検討されていない.
本研究は唯一の予測因子であった頭尾径に関してROC解析を行っている点はユニークであるが,AUCは0.68と大きくなく,2.7 cmというカットオフ・ポイントでも特異度は47.3%と低く,これ以下なら大丈夫というにはほど遠く,病棟担当医のストレスは減らない.

<コメント>
下垂体腫瘍に対する経蝶形骨洞手術後尿崩症を予測する因子は過去の研究によって様々である.結果のバラツキは対象症例の不一致と尿崩症の定義の不一致が主な原因と考えられる.本研究は対象を非機能性下垂体腺腫に限定している点は結果の解釈を分かりやすくしている.一方,尿崩症の発生頻度はこれまで10%後半〜20%台と報告している論文が多く,本研究の45.8%は際だって高い.本研究において手術後尿崩症を予測する有意な因子が腫瘍径しか見いだせなかったのは,尿崩症の定義が甘く,尿崩症とは言い切れないような軽症例も含まれているからではないかと推測される.(広島大学脳神経外科 木下康之)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

木下康之