ラトケのう胞感染による下垂体膿瘍:自験の3例と52例のレビュー

公開日:

2021年7月7日  

最終更新日:

2021年7月7日

Rathke's cleft cyst infections and pituitary abscesses: case series and review of the literature

Author:

Aranda F  et al.

Affiliation:

Neurosurgery Department, School of Medicine, Pontificia Universidad Católica de Chile, Santiago, Chile

⇒ PubMedで読む[PMID:33433887]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2021 Jun
巻数:24(3)
開始ページ:374

【背景】

下垂体膿瘍(PA)はまれでトルコ鞍手術の1%に過ぎない.そのうち7割は正常下垂体の感染である(原発性PA)が,30%は下垂体腺腫やラトケのう胞(文献1~6)など下垂体病変に伴うものである.チリ・カトリック大学脳外科は自験のラトケのう胞に伴う下垂体膿瘍の3例を報告した.2例は頭痛で,1例は視野障害で発症.2例は先行感染(気道あるいは皮膚)を伴った.1例は12年前のラトケのう胞の手術歴を有した.2例はラトケのう胞の,1例はラトケのう胞と下垂体の感染であった.2例でCRPが上昇していた.3例とも内視鏡下手術で膿汁様液のドレナージを行い,その中にグラム陽球菌を証明した.

【結論】

ラトケのう胞に伴う下垂体膿瘍の過去の12報告52例(女性39例)のレビューでは,年齢中央値は44歳(13~80),先行下垂体部手術17.3%(9/52),下垂体機能低下63.4%(26/41),尿崩症17.9%(7/39),脳神経症状20.9%(19/43),MRIにおける造影所見64.5%(20/31),術後尿崩症39.5%(15/38),再発39.5%(17/43)であった.起炎菌はグラム陽性球菌が最も多いが,グラム陰性桿菌,嫌気性菌,真菌の報告もあった.

【評価】

非常に稀なラトケのう胞の感染による下垂体膿瘍のレビューである.最初の報告は1972年に遡る(文献1)が,その後52例を数えるのみである.感染の背景としては,他部位からの血行性感染,先行した下垂体部手術,隣接する副鼻腔炎が挙げられる.ラトケ嚢胞が血流の乏しい組織であり,免疫反応が乏しいことも感染成立に関与している可能性も推察される(文献4,5).
本文を読んでも,画像所見は炎症を伴う症候性ラトケのう胞,下垂体卒中,黄色肉芽腫,のう胞性下垂体腺腫などとの決定的な差はなく,画像だけでの下垂体膿瘍の術前診断は難しいそうである.膿瘍成分はDWIで高信号となり得るので通常のラトケ嚢胞との鑑別に役立つ可能性はあるが(文献6),ラトケのう胞の中でも粘稠度の高い内容液はDWI高信号のものがあり,必ずしも決定的な所見ではない.結局は,急激な頭痛や急速に進行する視機能障害などの臨床経過や全身的な炎症所見を参考に積極的に感染を疑い,膿汁様成分の顕微鏡検査や培養を行うしかないようだ.起炎菌が同定出来たら,当然ながら,感受性の高い抗生物質を長期(本論文著者らの3例では3週間以上)に投与することになろう.しかしながら,再発は約4割と高いので丁寧な経過観察は必須であろう.

<コメント>
ラトケのう胞に合併した下垂体膿瘍の画像診断では,DWI高信号が有用となる可能性が高い.確かに,高い蛋白濃度/粘稠度を持つ内容液の場合は,ラトケのう胞でもDWI高信号を呈する可能性はある.したがって,最初から膿瘍を合併した場合は鑑別が難しいことになる.しかし,特に本邦ではMRI撮像の機会が多いので偶発的に発見されたラトケのう胞が経過観察されていることが多い.したがって,ラトケのう胞経過観察中の膿瘍の発生か,症候性ラトケのう胞に対する手術を行った後の膿瘍合併が多そうである.
ラトケのう胞に合併した下垂体膿瘍は稀な病態ではあるが,頭痛,視機能障害,下垂体機能障害などの症状の出現様式と,発症前のMRIとの比較から,総合的に判断して鑑別に挙げることは可能と思われる.(広島大学脳神経外科 高安武志)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

高安武志