鞍上部くも膜のう胞の成人例23例:北京天壇病院

公開日:

2021年7月26日  

最終更新日:

2021年7月26日

Suprasellar arachnoid cysts in adults: clinical presentations, radiological features, and treatment outcomes

Author:

Ma G  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital, Beijing, People's Republic of China

⇒ PubMedで読む[PMID:32712745]

ジャーナル名:Neurosurg Rev.
発行年月:2021 Jun
巻数:44(3)
開始ページ:1645

【背景】

鞍上部くも膜のう胞は頭蓋内のう胞性疾患の11.3%を占め,閉塞性水頭症,内分泌障害などを引き起こす(文献1,2,3).北京天壇病院脳外科は最近15年間に内視鏡下開窓術を行った23成人症例(平均年齢34.9歳,18~64)を基に,本疾患の病態を検討した.平均のう胞体積は40 cm3(12~73)で,水頭症は87.0%で認められた.臨床症状は脳圧亢進症状73.9%,視機能障害69.6%,内分泌症状30.4%であった.水頭症を呈した症例ではEvansインデックス(EI)は平均44.8%,frontooccipital horn ratio(FOHR)は49.6%であった.

【結論】

二変量解析では術前のう胞体積はEI,FOHRと良く相関した(r=0.607と0.583,共にp<.01).内視鏡下ではスリット・バルブは56.5%で,蒼白で強いのう胞壁は52.2%で認められた.のう胞開窓術によって全例で臨床症状の改善が認められ,のう胞体積,EI,FOHRの術後平均縮小率は64.7%,7.89%,5.8%であった.
同じく二変量解析では術後のう胞体積とEI,FOHRには相関は認められなかった.成人例では水頭症の程度とのう胞体積は良く相関し,内視鏡下開窓によって顕著な効果が得られた.平均追跡期間52.1ヵ月で,再手術が必要となった症例はなかった.

【評価】

鞍上部くも膜のう胞の約8割は10歳以下の小児に発生し(文献1,4),水頭症による大頭症,精神運動発達障害,低身長,思春期早発症を引き起こす.これまでに成人例の鞍上部くも膜のう胞のまとまった報告はない.本論文は,23例という多数例を対象にした後ろ向き研究であるが,成人例での症状は脳圧亢進症状(73.9%),視機能障害(69.6%),内分泌症状(30.4%)の順で多いことを示している.
成因に関しては,小児ではスリット・バルブが8割以上の症例で認められ,これがのう胞増大と関係付けられているが,本成人シリーズでは56.5%であった.また,本シリーズでは平均のう胞体積は40 cm3(12~73)で小児のシリーズ(中央値154 cm3あるいは221 cm3)に比べればかなり小さい(文献5,6).この背景としては成人では頭蓋内占拠性効果に対する代償メカニズムが少ない,のう胞増大機序が異なる事などが考慮されている.
現在,鞍上部くも膜のう胞に対する治療の主流は経側脳室的内視鏡下開窓であるが,成人例でも顕著な効果をもたらし,以前にVPシャントが施行されていた3例も含めて全例で臨床症状の改善が得られている.内視鏡下手技は,3例で脳室-のう胞開窓(VC)であった以外はすべて脳室-のう胞-脳槽開窓(VCC)であった.VCに比較してVCCの方が小児の鞍上部くも膜のう胞の再手術率が少ないことは既に2011年のMaherらのレビューでも示されているが(文献7),本成人シリーズでも再手術を要した症例はなく,このことが成人においても証明された形になる.

<コメント>
本論文の大きな問題点として組織所見に関する記載がないことを挙げたい.
当院で経験した成人「トルコ鞍部くも膜のう胞」の多くが,その後のCK AE1/AE3やEMAを用いた免疫組織化学などを含めた詳細な再検討によって,「ラトケのう胞」へ組織診断が変更された.
のう胞壁が薄く造影されず,内容液が髄液と同様で肉眼所見が「くも膜」様であり,また組織学的に明らかな上皮成分を確認しにくくても安易に「くも膜のう胞」と診断すべきではない.得られた手術検体が小さい場合は特に注意する必要がある.本物の成人「トルコ鞍部くも膜のう胞」は稀である.(虎の門病院 間脳下垂体外科 西岡宏)

<コメント>
本論文では手術の詳細が説明されていないが,ハサミを使った開窓を行っていることから,硬性鏡を使用した手術だと推測される.ハサミの使用できない軟性鏡でのVCCは難易度が高く,外眼筋麻痺などの合併症のリスクがある.一方,軟性鏡と違い,硬性鏡は可動域には制限があるが,モンロー孔が拡大している成人例では直線的にbasal cyst membraneに到達することが可能である.また,近年は磁場式ナビゲーションを使用することで,計画的な脳室穿刺も可能である.以上より,本論文が示しているように,成人の鞍上部くも膜のう胞に対しては,硬性鏡下のVCCが望ましい治療法であると思われる.
しかし,脳室拡大のない小児例などでは軟性鏡での開窓を行わざるを得ない症例が存在する.軟性鏡下で使用できるハサミの開発が望まれる.(鹿児島大学脳神経外科 藤尾信吾)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

西岡宏, 藤尾信吾