やっぱり“下垂体腺腫”ではなく,“下垂体部の神経内分泌腫瘍(PitNET)”でなければならない

公開日:

2021年7月31日  

最終更新日:

2021年8月1日

Pituitary neuroendocrine tumors: a model for neuroendocrine tumor classification

Author:

Asa SL  et al.

Affiliation:

Department of Pathology, University Hospitals Cleveland Medical Center, Case Western Reserve University, Cleveland, OH, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34017065]

ジャーナル名:Mod Pathol.
発行年月:2021 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

下垂体腺腫を下垂体部の神経内分泌腫瘍(PitNET)という名称にすべきという提案が2016年の第14回国際下垂体病理クラブ(IPPC)でなされて以来(文献1),ホットな議論が続けられてきた(文献2,3,4).本稿はPitNETの最も強力な主導者であるAsa SLらによる①下垂体腺腫をPitNETと呼び替えるべきであると同時に②従来の下垂体腺腫の分類の再編成にも着手すべきであるという,一歩踏み込んだ提案である.
まず,腺腫とは腺上皮からなる良性の腫瘍であるという定義なので,高頻度で周囲組織に浸潤し,時にアグレッシブな性質を示す下垂体腺腫はこれに当てはまらないという.

【結論】

一方,下垂体は甲状腺濾胞上皮や副腎皮質ステロイド合成細胞などの内分泌細胞とは異なり,甲状腺C細胞などと同様に,アミン前駆体を取り込み脱炭酸しペプチドホルモンを合成し,神経分泌顆粒に貯蔵するというAPUD細胞(神経内分泌細胞)の性質を有している(文献5).さらに下垂体腺腫は組織学的に,豊富な粗面小胞体,良く発達したゴルジ体,細胞膜に接する無数の分泌顆粒が認められ,免疫組織学的にクロモグラニンとINSM1に陽性である.これらは下垂体腺腫が神経内分泌細胞由来であることを明瞭に示している.
さらに現在の腫瘍細胞タイプ,増殖能(Ki-67高値),浸潤性に基づくアグレッシブ腺腫の定義(WHO第4版)に替えて,腫瘍のグレーディングとステージングの作業を開始すべきである.

【評価】

下垂体腫瘍が腺腫という「良性」の概念にとどまらない重篤な症状を呈することがあり,まれには死に至ることは以前から指摘されてきた.本稿では改めて「良性」の概念をMerriam-Webster辞典に求め,「性質がおだやかで生命をおびやかさない」と定義されていることを確認している.
本稿は2019年にIstanbulで開かれた第15回国際下垂体病理クラブ(IPPC)での議論を受けたものである.11ページにおよぶ総説は,改めて下垂体腺腫が神経内分泌腫瘍の一部であることを主張するのみならず,下垂体腺腫が神経内分泌腫瘍(NET)であることを認めるならば,命名(nomenclature)の問題にとどまらず,PitNETは他のNETと同様のアプローチを受けるべきであるとしている.一つは上記の腫瘍のグレーディングとステージングの提案であるが,もう一つは,下垂体癌の定義である.確かに現在のWHO第4版(2017)によれば下垂体癌は組織像とは関係なく,転移や播種を有する腫瘍と定義されている(文献6,7).著者らは他の癌と同様に神経内分泌癌(NEC)は高悪性度腫瘍で特有の遺伝子変異を伴うものに限定されているので,現在の下垂体癌の概念は放棄されるべきであると主張している.
一方で,著者らは下垂体腺腫の概念の下で発達してきた細胞系列(cell lineage)と構造特異性に基づく極めて詳細な形態・機能学的な分類は他部位のNETでは認められないものであり,今後他部位のモデルとなるものであるとしている.
PitNETをめぐる議論はまだまだ続きそうであるが,WHO第5版までには十分な議論と必要な修正がなされ,臨床現場に混乱が持ち込まれないよう期待したい.

<コメント>
再びAdenoma vs PitNET論争について
腺腫は組織学的に良性の腫瘍(WHO 1)を指す呼称である.確かに下垂体腺腫は,偶発腫を含めてその多くはおとなしい良性腫瘍(WHO 1)だが,その一方で症候例の中には周囲組織を破壊浸潤しながら増大する症例が少なくない.転移や髄腔内播種をきたした場合は下垂体癌(WHO 4)と呼ばれる.この論争は,下垂体癌以外を一括して腺腫(良性すなわちWHO 1)として良いのか,という問題提起から始まった.また下垂体腺腫と下垂体癌の間に明確なグレーディング・システムがないことも問題となった.これは2017年のWHO分類(第4版)で異型性腺腫という概念が,再現性がないことなどから削除されたこととも関係している.さらに臨床現場の問題としては欧米での保険でのとり扱い(浸潤性の難治性腺腫も悪性化[転移]しない限り良性と扱われる)も大きく関与している.
神経内分泌腫瘍(NET)は良性から悪性までを含む疾患概念であり明確なグレーディング・システムが存在する.現在の改訂作業(WHO 第5版)においてもWHOは全ての癌・腫瘍のグレーディング/ステージングを目指している.当然,下垂体腺腫にもそのようなシステムが求められているが,これに関しては未だ具体的な報告はない.残念ながら下垂体腺腫のグレードは組織所見だけでは決められず,腫瘍の浸潤性などの臨床情報(主にMRI)が必要とされている.臨床的に難治性でアグレッシブな腺腫をどうグレーディングするかが問題の核心であり,基本的にPitNETへの改称とグレーディング/ステージングの作業は表裏一体である.
Adenoma派,PitNET派どちらの側にもそれなりの理由と根拠はある.実際IPPCのdiscussionでもadenomaをPitNETにしてしまうのはかつて髄芽腫をPNETに入れようとした時と同様におかしいという意見や臨床現場に要らぬ混乱を引き起こすだけだとする反対意見も多く聞かれた.大雑把に分けると,病理医はPitNET派,内分泌内科医や脳外科医はadenoma派が多いようである.
結果として,現在進行中のWHO内分泌腫瘍分類の改訂(第5版)では下垂体腺腫はAdenoma/PitNETと並記することになった.2021年6月に発行されたWHO脳腫瘍第5版では,既にTumors of the sellar regionの1つとしてPituitary adenoma/PitNETの名称が記載されている(文献8).
いずれにしても本邦では「腺腫」が変わることはないと思うが,この問題の早期収束とグレーディング・システムの確立が望まれる.(虎の門病院 間脳下垂体外科 西岡宏)

執筆者: 

有田和徳