内視鏡時代の巨大下垂体腺腫の治療:USCとウィーン大学の64例

公開日:

2021年9月3日  

最終更新日:

2021年9月3日

Treatment strategies for giant pituitary adenomas in the era of endoscopic transsphenoidal surgery: a multicenter series

Author:

Micko K  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Keck School of Medicine, University of Southern California, Los Angeles, California, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34388714]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

腫瘍径4 cmを超える巨大下垂体腺腫の治療には難渋することが多いが(文献1,2),内視鏡の導入はコントロールの可能性を拡大している(文献3).本稿は米国USCとウィーン大学で2004年以降に内視鏡下で初回手術が行われた径4 cm以上で体積が10 cm3以上の巨大下垂体腺腫64例の治療成績である.平均年齢51歳,男女ほぼ同数,平均腫瘍径47 mm,非機能性腺腫57例(89%),下垂体卒中11例(17%),視機能障害55例(86%),複視7例(11%),頭痛36例(56%),汎下垂体機能低下10例(16%).摘出度はGTR:MRI上の残存腫瘍がない,STR:80%以上,PR:80%以下の摘出とした.

【結論】

手術結果は64例全体ではGTR28%,STRは53%,腫瘍外形が類円形の14例ではGTR64%,STR36%,ダンベル型13例ではGTR46%,STR46%,多分葉型の37例ではGTR8%,STR62%であった.初回手術によるGTRか残存腫瘍が海綿静脈洞内に限局したタイプの21例では再手術を必要とはしなかったが,STRかPRで頭蓋内腫瘍残存があったタイプの43例では6例(14%)が術後腫瘍内出血のため緊急開頭手術を要した.残りの症例のうち5例(12%)が後に開頭手術,12例(28%)が2回目のETSを受けた.腫瘍コントロールは,平均3年(0.5~16年)の観察で91%がstableの判定であった.

【評価】

本稿は,現在米国USCケック医学校とウィーン大学の両方に籍をおくMicko Aによる,経鼻内視鏡下経蝶形骨洞手術(ETS)が初回手術であった64例の巨大下垂体腺腫に対する治療成績のまとめである.23例(36%)で追加手術が行われており,2回目のETSを受けた12例のうち9例には拡大経蝶形骨洞手術が行われた.3年の観察後の腫瘍コントロールは91%がstable diseaseであった.また,最終的な視機能の改善は61%で認められた.手術による死亡はなく,重篤な合併症は10例(16%)で認められ,内訳は脳梗塞4例,髄膜炎4例,シャント手術を要する水頭症4例,明らかな視力低下2例であった.うち1例は両側の後大脳動脈の閉塞によって植物状態となっている.なお,オクトレオチドやテモゾロミドを含む術後薬物療法が6%,放射線治療が25%に実施されている.
また,本稿では,ETS後の腫瘍残存が海綿静脈洞内のものと頭蓋内(鞍上部)のものでは,その後の治療戦略に大きな差が生じることを明らかにしている.すなわち海綿静脈洞内の残存は再手術の必要性は少なく定位的な方法を含む放射線照射でもコントロール可能である.一方,鞍上部の残存腫瘍に対しては過半数(23/43例)で追加手術が必要となり,残存腫瘍の出血性変化のため緊急の開頭手術を要するものもあるので,手術直後の画像評価は必須であるという.
近年,特に多分葉型の巨大下垂体腺腫に対する経鼻内視鏡-開頭同時手術(combined surgery)の有効性が報告されている(文献4,5).これに関しては,著者らは,体位や適切なアプローチが制限されることと,段階的な手術の方が腫瘍の縮小によって周囲の神経・血管構造からの安全な剥離が可能になりやすいことから,その有用性には疑問を呈している.
巨大下垂体腺腫の手術は,脳神経・穿通動脈・視床下部・下垂体などの重要構造をどうやって温存するか,複雑に分葉した腫瘍をどうやって全摘するか,また術中評価をどうするか,さらに術後画像検査も含めた手術後管理をどうすべきかなど下垂体外科医にとって,チャレンジングな課題が山積している.今後も議論が必要な重要テーマである.

<コメント>
巨大下垂体腺腫に対する外科治療に関しては多くの課題が残っている.ただし巨大腺腫であっても形状が比較的スムーズで頭蓋内進展が乏しい場合は通常の経鼻手術で問題となることは少ない(Cappabianca P, et al. Acta Neurochir 2014).問題となるのは頭蓋内に不整形に大きく進展し,血管(特に穿通枝)を巻き込む腫瘍であり,著者らも経験しているように術後血管障害(穿通枝梗塞)のリスクが高い.一方,残存腫瘍の出血(卒中)も重篤な合併症をきたすが,このシリーズではそれにより緊急手術が必要になった症例が14%と多い。穿通枝梗塞のリスクを下げるために無理な摘出は控えるとしているが, それでは術後出血のリスクは却って増加てしまう可能性がある.著者らは開頭経鼻同時手術に消極的だが,少なくとも同時手術では術後出血のリスクは低い.このようなcomplex adenomaに対しては放射線治療を含めた個別化治療が必要である(Nishioka H, et al. World Neurosurg 2017).
一方,本論文の内分泌や病理所見に関しての記載は相変わらずのサブスタンダードである.甲状腺ホルモンや性腺ホルモンも測定せずにTSH産生腺腫や下垂体機能低下症の診断はできないはずであるが,負荷試験など内分泌学的評価の記載はない.またTable 1のWHO2017に基づくとされる組織分類も明らかに誤りである.JNS採用論文がこのレベルとは誠に残念である.
(虎の門病院 間脳下垂外科 西岡宏)

執筆者: 

有田和徳