先端巨大症の外見を呈しIGF-1が高値なのに正常GH抑制を示すLow GH acromegalyあるいはMicromegalyの病態:ミラノの25例

公開日:

2021年10月20日  

最終更新日:

2021年10月20日

Effects of Antiplatelet Therapy After Stroke Caused by Intracerebral Hemorrhage: Extended Follow-up of the RESTART Randomized Clinical Trial

Author:

Salman RA  et al.

Affiliation:

Centre for Clinical Brain Sciences, University of Edinburgh, Edinburgh, United Kingom

⇒ PubMedで読む[PMID:34477823]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2021 Oct
巻数:78(10)
開始ページ:1179

【背景】

先端巨大症の症状を示す患者やその他の患者で経口糖負荷試験中(OGTt)のGH底値(GHn)が正常抑制(<0.4 μg/L)を示しながら,IGF-1が高値を示すことがある.本稿は,ミラノ・ポリクリニコ病院内分泌科で2008年以降にOGTtを施行した患者の中でこのような乖離が認められた53例(女性34名,平均年齢54歳)の解析である.GHn中央値は0.06 μg/L(IQR,0.05~0.16),IGF-1 SDS中央値は+3.1(+2.5~4.0)であった.先端巨大症の外見を呈した25例をGR1,他の理由でOGTtを行った28例をGR2とした.

【結論】

全体では,中央値6年の観察期間中,IGF-1とGHnの有意の変化を認めなかった(平均差,IGF-1:−0.58,GHn:+0.03).GR1ではベースラインの先端巨大症の併存症数はGR2より多く(中央値 3 vs 1,p=.005),特に悪性腫瘍が多かった(36 vs 6%,p=.03).また,併存症の進行もGR1で多かった(4 vs 1).
GHn正常でIGF-1高値患者ではホルモン学的な進行は認められないので,これらが典型的な先端巨大症の早期像である可能性はなさそうだ.しかし,先端巨大症の外見を示す群ではそうでない群に比較して併存症は多くかつ増加しがちであり,注意深い監視が必要である.

【評価】

先端巨大症様の外見的特徴(眉丘部の膨隆,巨大舌,四肢の肥大,鼻や口唇の肥大など)を示し,IGF-1高値を伴いながら正常のGH抑制(<0.4 μg/L)を示す症例があることは,以前から良く知られており,このようなケースを “low GH acromegaly” あるいは “micromegaly” と呼ぶことがある(文献1,2).このようなケースでは肝細胞や他の臓器における成長ホルモン受容体活性の亢進などのメカニズムが示唆されている.
本研究は,このような “micromegaly”(GR1)の臨床像を明らかにするために,先端巨大症の外見的特徴を示さない患者でIGF-1高値でGH正常抑制を示した患者を対照(GR2)として比較した後方視研究である.GR2は偶発下垂体腺腫,視機能障害を示すマクロアデノーマ,下垂体機能不全症の疑い,トルコ鞍空洞症などの疾患に対して内分泌学的な評価を受けた患者群である.
先端巨大症の併存症(comorbidities)として取り上げられたのは甲状腺腫(goitor),高血圧,心肥大,大腸ポリープ,悪性腫瘍,手根管症候群,糖代謝異常である.
その結果,2群間ではIGF-1 SDSに差はなかった(+3.15 vs +3.1)が,GR1では対照群のGR2に比較して,患者一人あたりの併存症の頻度が多かった(特に悪性腫瘍)(3 vs 1).この併存症の頻度は典型的な先端巨大症の頻度と同様であった.さらに6年の経過観察期間中,併存症の個数は対照GR2に比較して増えたという.
これを受けて,著者らはmicromegalyは単に外見上の異常のみならず,併存症も高率であり,また併存症が増加する可能性が高く,通常の先端巨大症同様に定期的に丁寧なスクリーニングを行うべきであると結論している.
この研究におけるもう一つの重要な発見は,最低3つの併存症を有することの診断にGH底値が有用であったことである(AUC:0.761).GH底値のカットオフが0.1 μg/L (以上)なら感度71%,特異度77%であった(Youden index).何らかの先端巨大症外見を呈している患者ならカットオフ0.1 μg/Lの特異度は86%であった.
著者らはこの結果を受けて,先端巨大症の診断基準のGH底値は現在の0.4 μg/L以上は少なくとも一部患者にとっては高すぎる可能性を示唆しており,性/年齢/BMI/エストロゲン分泌状態毎のカットオフ値の設定を提案している.
かねてからColumbia大学のFredaらは,高感度GH測定法では健常者のGH底値は0.14 μg/L以下であると主張している(文献3).また,先端巨大症治療後のGH抑制とIGF-1値の乖離が頻繁に認められることはよく知られている(文献4,5).
本研究は,多数例を対象として,また対照をおいてmicromegalyの臨床像を求めた優れた研究であり,現在の先端巨大症診断基準の問題点も指摘している.
本研究で指摘された問題点は,先端巨大症診断基準あるいは治癒基準のGH底値のカットオフ値をいくらにするのかという問題とも密接につながっている.今後,多施設前向き研究で検証されるべき内容である.
さらに,micromegaly例におけるTRH試験やLH-RH試験への反応,あるいはOGTtでのGHの逆説的上昇はどうなっているのか(文献6,7).これらは,既に性・年齢毎のIGF-1の標準値が示されていて,TRHやLH-RHが入手可能な本邦での研究で明らかにしていただきたい.
なお,本研究ではIGF-1の測定ではImmulite 2000 IGF-1(Siemens)を,標準品は2017年までIRR 87/518を,以降はIS 02/254を使用している.SDS値はChansonらが健常フランス人900人を基に作成した性・年齢群毎の標準値に基づいて算出している(文献8).

<コメント>
本研究は多数例のLow GH acromegalyを対象とした研究で重要な発見を提示しているが,いくつかの問題もある.まず,本研究ではIGF-1のカットオフ値を,+2.0 SD以上としているが,IGF-1値は,栄養状態や摂食状況,甲状腺機能,肝機能, 腎機能,糖尿病などで影響を受けることから,健常人の約2~3%はIGF-1高値と判定されてしまう.もし+2.5 SD以上を高値と定義すれば,約0.6%の混入率となり,本シリーズのGR1では診断時は25例中2例が外れ,経過観察期間ではこの2例+7例(計9例)が外れる.またGR2でも診断時は28例中6例が外れ,経過観察期間では6例中3例+8例(計11例)が外れることになる.
一番知りたいのは,これらの対象例で血中IGF-1値が低濃度のGH分泌による調節を受けているかどうかである.IGFBP-3濃度は(現在日本ではコマーシャルベースでの測定は出来ない)GH依存性因子なので,低いGH濃度での反応性を判断し得る.今後,Low GH acromegaly病態解明のための有力なツールになると思われる.
我々は,2003年にGHの持続的分泌過剰を伴わずIGF-1が高値を示した下顎前突症の24歳男性例(間脳下垂体機能障害に関する調査研究班平成14年度総括・分担研究報告書,pp.32-37)を報告した.先端巨大症の部分症状として下顎前突症と手掌の発汗過多,足底部軟部組織厚の増加,肥満があり,IGF-1:652 ng/ml,IGFBP-3:3.95 μg/mlと高く,GHの基礎値は0.14~11.3 ng/mlまで変動し,OGTTにより0.27 ng/mlまで抑制された.尿中GH排泄量は5回測定の全てで測定感度以下であった.興味深いことに6日間のオクトレオチド皮下注でIGF-1は761→395 ng/mlと抑制された.この例は4年間の臨床経過によりIGF-1:347 ng/ml,IGFBP-3:2.59 μg/mlと自然に低下した.
現在用いられているGH測定法は22 KDa GHを主に測定しており,生物活性がより強いと言われる20 kDa GHへの交叉反応性はかなり低いことも,GHとIGF-1の乖離に関連している可能性がある.
一方,GH非依存性のIGF-1過剰産生例には,低血糖を示した大細胞性肺癌(J Clin Endocrinol Metab. 2007;92:1600),先端巨大症を呈したGH/IGF-1同時産生巨大後腹膜脂肪肉腫(AACE Clin Case Rep. 2020;6:e165)等の報告があるが,いずれも悪性腫瘍による.
以上の諸問題を考慮しながら,本論文を読み解く必要性がある.
(社会医療法人誠光会 淡海医療センター 島津 章)

執筆者: 

有田和徳

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