経鼻内視鏡手術後の視力低下の原因と対処法:ワイルコーネル医科大学連続1,200例の解析

公開日:

2021年11月8日  

最終更新日:

2021年11月9日

Visual deterioration after endonasal endoscopic skull base surgery: causes, treatments, and outcomes

Author:

Carnevale JA  et al.

Affiliation:

Departments of Neurological Surgery, Weill Cornell Medicine, NewYork-Presbyterian Hospital, New York, NY, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34598134]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

下垂体領域の手術後に,予期に反して視機能の悪化が起こることがある.その報告頻度は1~30%と対象疾患や手術方法によってかなり幅が広く(文献1,2,3),その機序,治療指針,転帰も十分に明らかではない.ワイルコーネル医科大学脳外科は,これらの課題に応えるため,過去10年間に実施した1,200件(内訳:下垂体腺腫51%,髄膜脳瘤8.6%,髄膜腫8.4%,頭蓋咽頭腫7.3%など)の内視鏡下経蝶形骨洞手術を後方視的に解析した.
全患者では1.75%(21例)の頻度で手術後の自覚的な視機能低下が認められた.腫瘍別では頭蓋咽頭腫7.7%,髄膜腫5.4%,下垂体腺腫1.9%の頻度であった.

【結論】

術直後から視機能悪化までの平均時間は29時間で,70%の症例では13時間以内であった.視機能悪化の原因と発症までの平均時間は術後出血7例(約7時間),挿入された移植片4例(70時間),虚血10例(10時間)であった.圧迫性の原因(11例)は下垂体腺腫で,虚血性の原因(10例)は頭蓋咽頭腫で多かった.視機能悪化症例のうち81%(17例)では適切な介入によって視機能の回復が得られ,恒久的な視機能障害が残ったのは0.33%(4例)であった.16例(76%)では早期再手術が行われ,圧迫性のものは全例で術前レベルに回復し,虚血性のものはステロイド,酸素投与,循環血液量増加,昇圧によって60%が改善した.

【評価】

1,200例の内視鏡下経蝶形骨洞手術で恒久的な視機能の悪化を来したのはわずか4例(0.33%)という,この問題では何回もつらい目に遭ってきた者としては驚異的としか言いようのない優れた結果である.著者らは,術後早期に視機能悪化を発見し, 圧迫性の原因(出血あるいは移植片)が疑われるものでは,早期の再手術による減圧によって視機能は回復し得ると述べている.片や虚血性のものでは不必要な再手術で時間を浪費することなく,いち早くステロイド,酸素投与,循環血液量増加,昇圧(SOHHT:steroid, supplemental oxygen,and hypervolemic hypertensive therapy)を行えば,半数の視力が改善するという.ちなみに虚血性のものでは,手術後8~16時間での循環血液量増加と手術後32~48時間での収縮期血圧上昇がその後の視機能の改善と有意に相関した(p=.034とp=.05).
著者らは,術後の視機能悪化を防ぐコツは,視交叉そのものや視交叉を灌流する小動脈への操作を最低限にし,閉創用の移植片(脂肪組織など)は視交叉への圧迫を避けるように留置することであると述べているが,これが実際には難しい.最大限の腫瘍摘出を目指せば視交叉やそれを灌流する小動脈の損傷は避けがたく,髄液漏を防ごうと思えばたっぷりの脂肪組織や筋膜は挿入しておきたい.
問題はいかにして圧迫性のものと虚血性のものを見分けるかであるが,抜管直後にCTを撮るのはもちろん,視機能悪化出現時にも直ちにCTあるいはMRIを撮る必要性がある.著者らによれば,およそ術者というものは原因についてある程度の直感(instinct)も抱いているだろうから,それも活用しなさいという.
このシリーズで最多の腫瘍であった下垂体腺腫では術後視機能悪化の頻度は1.9%であったが,この頻度は従来の報告に一致している(文献4,5).また従来の報告と同様に本シリーズでも,術後出血によって視機能悪化が認められた症例の75%は大型腺腫であったという.手術前に大きかった腫瘍ほど術後出血による視交叉圧迫の可能性は高くなるので当然である.術後出血や挿入した移植片の膨潤・炎症による圧迫が術後視機能悪化の原因と判断したら躊躇することなく再手術して圧迫の原因を除去することが必要である.
そうでなければ虚血性と判断することになるが,再手術時の所見(圧迫要因が無いこと)あるいはくも膜下出血による血管れん縮や尿崩症による循環血液量の低下が虚血を促進している可能性も考慮して判断することになろう.虚血性と判断されれば,直ちにSOHHTを開始することになる.このシリーズでは使用されていないが,カルシウムブロッカーや患者の協力が得られれば高気圧酸素療法も治療オプションに入るかも知れない.

執筆者: 

有田和徳