これは何だ? T2強調MRIで漏斗-下垂体茎移行部に認められるリング状限局性肥厚

公開日:

2021年11月25日  

最終更新日:

2021年11月25日

An Infundibular Unidentified Object (IUO): a new pituitary stalk marker?

Author:

Bonneville JF  et al.

Affiliation:

Centre Hospitalier Universitaire de Liege, Liège, Belgium

⇒ PubMedで読む[PMID:34254253]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2021 Dec
巻数:24(6)
開始ページ:964

【背景】

間脳下垂体病変のMRIでは,漏斗-下垂体茎の位置,信号強度,造影態度は常に注目の対象であるが,漏斗-下垂体茎そのものの形状は殆ど注目されて来なかった.本論文は下垂体疾患の画像診断に50年のキャリアを捧げてきた「ミスター下垂体」ことベルギー・リエージュ大学のBonneville JFによる漏斗-下垂体茎のMRI所見の報告である.
対象は,直近3ヵ月間に下垂体部疾患の疑いあるいは治療前後で,3T-MR機種でT2矢状断を含むMRIが施行された連続350例.
このうち腫瘍による圧迫などで下垂体茎の全長を観察することが出来ない112例は除外し,残りの238例を解析の対象とした.

【結論】

238例中151例では漏斗陥凹周囲にT2強調像で低信号の限局性輪状肥厚が認められた.この輪状肥厚は前方で厚く,特に105例(44%)では腹側への棘(トゲ)状の突出を示していた.この輪状肥厚はT1強調像や造影T1像では認められなかった.
238例中87例では輪状肥厚は認められず,この87例中43例では原発性・続発性トルコ鞍空洞症のため,下垂体茎が強く引き延ばされていた.この43例を除けば解析の対象になった238例中で漏斗陥凹周囲の限局性輪状肥厚は194例(82%)で認められた.
漏斗下端で認められるこの限局性輪状肥厚(前方に厚い)は正常者のMRI所見であるが,かつて報告されたことはない.

【評価】

提示されたT2強調画像をみると,確かに漏斗陥凹下端すなわち下垂体茎の上部が限局的に分厚くなっており,その肥厚は前方(腹側)に突出しているように見える.一体全体これは何か?
著者らは,弓状核の一部(文献1),正中隆起,腺性下垂体の一部(pars tuberalis)(文献2),下垂体門脈系の一部である毛細血管網(文献3),扁平上皮細胞集団(文献4),ラトケ陥凹の遺残などの可能性を示唆しており,この中ではpars tuberalisと毛細血管網を推しているようだが,決定打はなさそうである.
その上で,著者らはこの所見を,多発性硬化症やNF1(文献5)の脳で認められるunidentified bright objects(UBO)に倣って,infundibular unidentified object(IUO)と呼ぶことを提唱している.
下垂体部T2矢状断像はどこでも撮像可能であるので,このIUOについては,今後世界中で検証が行われると思われる.特に,下垂体分泌異常を呈しながら,一見正常に見える下垂体において,この所見が有るのか無いのかについては興味深い.さらに剖検脳MRIや生体でも7T-MRIを用いることによって,より詳細な構造解析が進むかもしれない(文献7).日本の主要な下垂体センターでの追試に期待したい.
Bonneville JFの年齢は定かではないが,1971年にはケースレポート[Isolated cervical eosinophilic granuloma in a child]を筆頭著者として著しているので,2021年時点で,少なくとも75歳は越えていそうである.彼は約50年間にわたって,下垂体画像診断の研究を続け,教科書もRadiology of The Sella Turcica(単純X線写真について,Springer,1981),Computed Tomography of the Pituitary Gland(Springer,1986),MRI of the Pituitary Gland(Springer,2016)を執筆している.その他,脊髄・脊椎疾患の画像診断でも多数の研究業績がある.このようないわばレジェンドが地道に研究を行い,原著論文を発表し,この領域の臨床家や研究者に全く新しい視点を提供した事について深甚なる敬意を示したい.

<コメント>
正常成人における下垂体漏斗(infundibulum)の形態の検討である.筆者らは対象の44%においてthin slice T2WIで,漏斗下方で前方への突出を認め,これをIUO(infundibular unidentified object)と命名している.
下垂体茎の大きさ,形,位置などに関してはこれまでも多数報告されているが,下垂体漏斗の正常形態の放射線学的検討はなく,その点では独創的である.しかし,この所見は本文でも示されているようにT2WIのみで観察され,T1WI,造影T1WIでは観察出来ていない.今後,各種画像モダリティーを駆使して更なる検証が必要である.
また,今回は成人の検討であるが,下垂体漏斗に病変を生ずる疾患としては,胚細胞性腫瘍,頭蓋咽頭腫,ヒスチオサイトーシス,下垂体炎など小児から若者に発生するものが多く,IUOとこれら腫瘤性病変との鑑別は必要である.その意味ではIUOの年齢による変化も検討すべきである.さらに,IUOは従来の解剖所見として指摘されていないバリエーションの可能性があり,下垂体門脈などの血流動態やホルモン分泌機能との関連についても検討が必要である.(広島赤十字病院 脳神経外科 隅田昌之)

執筆者: 

有田和徳