癌に対するPD-1/PD-L1阻害薬関連下垂体炎でなぜACTH単独欠損症になるのか:傍腫瘍症候群による発症機序

公開日:

2021年12月9日  

最終更新日:

2021年12月10日

Mechanistic insights into immune checkpoint inhibitor-related hypophysitis: a form of paraneoplastic syndrome

Author:

Kanie K  et al.

Affiliation:

Division of Diabetes and Endocrinology, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:33977343]

ジャーナル名:Cancer Immunol Immunother.
発行年月:2021 Dec
巻数:70(12)
開始ページ:3669

【背景】

免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による下垂体機能障害や下垂体炎は5%前後の頻度で発生するが(文献1),その機序についてはまだ十分解明されていない.神戸大学糖尿病・内分泌科のチームは,自験のICI関連下垂体炎20例を対象に内分泌学的,免疫学的,組織学的な手法を用いて後方視的解析を行った.このうち16例は抗PD-1抗体,2例は抗PD-L1抗体,2例は抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体による治療を受けていた.20例全例でACTH欠損を,3例でTSH欠損を,1例ではゴナドトロピン欠損を示した.

【結論】

マウス下垂体組織を用いた免疫染色による検討では3例の患者血清に抗下垂体抗体が認められ,このうち2例では抗コルチコトロフ抗体が,1例では抗ソマトトロフ抗体が同定された.
この抗コルチコトロフ抗体はプロオピオメラノコルチン(POMC,ACTHの前駆体)を認識した.さらにこの2例の原発巣(悪性黒色腫,腎細胞癌各1例)では免疫組織化学によりACTHの異所性産生が証明された.
すなわち,PD-1/PD-L1阻害薬関連下垂体炎の10%は,傍腫瘍症候群としてのコルチコトロフに対する自己免疫と関連していた.

【評価】

2019年発表のビッグデータ解析(13,051例)によれば,下垂体炎や下垂体機能障害は免疫チェックポイント阻害薬投与後に約5%の頻度で発生することが明らかになっている(文献1).免疫チェックポイント阻害薬による下垂体炎は抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)で抗PD-1抗体(ニボルマブ,ペムブロリズマブ)よりも頻度が高いことも知られている.
CTLA-4阻害剤による下垂体炎では,正常下垂体細胞におけるCTLA-4発現が抗CTLA-4抗体による下垂体機能障害の背景にあると考えられている(文献2).一方で,抗CTLA-4抗体による下垂体炎と抗PD-1抗体による下垂体炎では明らかに病像が異なることから,別のメカニズムが示唆されていた.
また,免疫チェックポイント阻害薬による下垂体機能障害や下垂体炎ではACTH-副腎皮質機能が障害されやすいのが特徴であるが,本シリーズでは100%にACTH障害が認められている.最近のヨーロッパの56例のシリーズでは89%(文献3),名古屋大学の非小細胞性肺癌の16例のシリーズでも100%にACTH障害が認められている(文献4).
これまで, 免疫チェックポイント阻害薬による下垂体機能障害では,なぜACTHが率先して障害され,多くはACTH単独欠損症の形をとるのか,なぜ抗PD-1抗体で下垂体機能障害が起こるのかは謎であった.
本論文は,癌腫自身がACTHを異所性に産生していることを証明し,免疫チェックポイント阻害薬治療がサブクリニカルな異所性ACTH産生腫瘍細胞に対する(自己反応性)リンパ球を活性化してしまい,下垂体ACTH細胞に対しても細胞障害を惹起するという傍腫瘍症候群の概念を提唱している.PD-1/PD-L1阻害薬による下垂体機能障害の少なくとも一部(本シリーズでは10%)ではこのメカニズムが関与しているようであるが,一方で,そうでない症例も多く,免疫チェックポイント阻害薬による下垂体炎の発生には多様なメカニズムが想定され,その解明は今後の課題である.
さらに,抗CTLA-4抗体によるACTH障害では同様の傍腫瘍症候群の機序が関与していないのかについても興味深い.

<コメント>
本論文は,そもそもPD-1/PD-L1関連下垂体炎においてなぜACTH単独欠損症が高率に認められるのかのかという素朴な疑問から始まった研究の成果である.しかしそれは単なる思い付きではなく,いくつかの背景がある.
一つ目は我々が既に傍腫瘍症候群として引き起こされる2つの新しい自己免疫性下垂体疾患を見出し報告してきたことである(Endocr Rev. 2020 Apr 1;41(2):bnz003. doi: 10.1210/endrev/bnz003.).一つは胸腺腫や悪性腫瘍に異所性にPIT-1が発現することによって発症する抗PIT-1下垂体炎(抗PIT-1抗体症候群)であり,もう一つは大細胞神経内分泌癌に異所性にPOMC(ACTHの前駆体)が発現することによって発症するACTH単独欠損症である.これらはいずれも腫瘍における異所性タンパク発現による傍腫瘍症候群と考えられる.これまで内分泌疾患としてはこのような機序による傍腫瘍症候群はほとんどなかったが,神経疾患では,例えば抗NMDA受容体脳炎など決して稀ではない.
もう一つは下垂体前葉ホルモンは6個あるが,その中で最も異所性に発現しやすいのはACTHであるという事実である.異所性ACTH症候群はクッシング症候群をきたすが,実は肺がんなどでも無症候性のACTH発現は30%以上に認められることが報告されている.これらの事実を背景に今回の研究を進めた結果,少なくとも一部のPD-1/PD-L1関連下垂体炎で傍腫瘍症候群の機序が関与していることを明らかにした.
ではそれ以外の症例ではどのように説明できるのか?これについては,いくつかの可能性が挙げられる.今回検討した他の症例も2例と同様の機序で下垂体炎が起こっているが,抗体の感度の問題で同定できていない可能性は考えておかなければならない.あるいは腫瘍細胞において下垂体と共通の他の種類の抗原が異所性に発現していることも考慮すべきである.もちろん全く異なる機序の関与も否定は出来ない.
今回の我々の報告がきっかけとなって,免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎の機序が明らかになり,その予防やより良い治療法の発見に結びつくことを祈念している.
なお最近,共著者のBandoがこの傍腫瘍症候群による下垂体炎についての総説を発表している(文献5).
(奈良県立医科大学糖尿病・内分泌内科 高橋 裕)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

島津章