免疫療法関連下垂体炎と原発性下垂体炎はどう違うのか:116例の解析

公開日:

2021年12月9日  

最終更新日:

2021年12月10日

Differences between immunotherapy-induced and primary hypophysitis-a multicenter retrospective study

Author:

Amereller F  et al.

Affiliation:

Medizinische Klinik und Poliklinik IV, LMU Klinikum, München, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:34518996]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2021 Sep
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

免疫療法関連下垂体炎(IIH)と原発性下垂体炎(PH)はどう違うのか.本稿はドイツ2施設,英国1施設で診断された下垂体炎116例(IIH56例,PH60例)の臨床像の解析である.患者にはACTH負荷試験やGHRH-アルギニン負荷試験を含む系統的な内分泌学的な評価が行われた.追跡期間はIIHで18ヵ月,PHで69ヵ月であった.免疫チェックポイント阻害薬投与からIIH診断までは中央値3ヵ月.男性患者の割合はIIHで64%と,PHでの27%に比べて大きく(p<.001) ,男性例は女性例より多系統の下垂体ホルモンが障害されていた(p<.001).

【結論】

障害ホルモン系統数は2群間で差は無かった(いずれも中央値2).IIHではPHに比してACTH-副腎皮質機能低下(89 vs 67%,p<.001),プロラクチン分泌低下(15 vs 3% p=.033)が多く,尿崩症は少なかった(4 vs 38%,p<.001).
倦怠感(66 vs 52%),頭痛,嘔気など自覚症状の頻度は2群間で差はなく,自覚的な視機能低下はIIHで少なかった(6 vs 17%,p<.001).IIHの20%は自覚症状が無かった.MRI上の下垂体茎の腫大(27 vs 56%)や下垂体病変の頻度(27 vs 46%)はIIHで少なかった(p=.009とp=.020).

【評価】

この研究は,IIHとPHの患者を同一施設で同一の手法で評価し,直接に比較した臨床研究として初めてのものである.
従来の報告通り,IIHはPHに比較して年齢が高いのは当然として(平均60 vs 45歳),本研究でも男性例が多かった(文献1,2,3).一般に,自己抗原に対する免疫反応は男性で弱いと考えられている.これが男性におけるより強い免疫チェックポイント機能によるものだとすれば(文献4),免疫チェックポイント阻害剤によって,強く抑制されていた免疫反応が解き放されことによって,より過剰な二次性自己免疫障害が引き起こされる機序が考えられている.
IIHでもPHでも下垂体炎の症状としては倦怠,頭痛,吐気などが主要なものであるが,IIHの場合は背景疾患である癌とそれに対する治療でも同様の症状が引き起こされるので注意が必要である.尿崩症はPHでは約4割で認められるのに対して,IIHでは殆どない(4%).これはIIHがもっぱら腺性下垂体に対する自己免疫障害であることを反映している.
IIHではACTH-副腎皮質機能障害が高率であるのも特徴で本シリーズでは89%に認められた.免疫チェックポイント阻害剤投与を受けた非小細胞性肺癌と悪性黒色腫174例の前向きコホートスタディーの結果が2020年に名古屋大学から発表されている(文献5).これによれば,16例(9.2%)で下垂体性の免疫関連副作用(irAE)が出現しており,全例がACTH-副腎皮質機能障害を示した.
下垂体腺腫や頭蓋咽頭腫などの腫瘍による下垂体/下垂体茎の圧迫ではACTH-副腎皮質機能は最後まで保たれていることが多く,IIHにおけるこのACTHの選択障害ともいうべき病態は興味深い.
IIHはPD-1阻害剤(ニボルマブ,ペムブロリズマブ)よりもCTLA-4阻害剤(イピリムマブ)で頻度が高いことが知られている.このシリーズでもIIHの原因となった免疫チェックポイント阻害剤はイピリムマブ24例,イピリムマブ/ニボルマブ18例,ペムブロリズマブ10例,ニボルマブ3例,イピリムマブ/ペムブロリズマブ1例であり,単剤投与ではCTLA-4阻害剤のイピリムマブ使用例が多かった.最近,この理由に関して,イピリムマブが下垂体細胞に異所性に発現しているCTLA-4と結合することがIwamaらによって報告されている(文献6).
さらに本研究では,これまでで初めて他の自己免疫疾患の併発を検討しているが,その頻度は下垂体炎診断前はIIHで少なく(13 vs 38%,p=.003),下垂体炎診断後はIIHで多いことを明らかにしている(38 vs 13%,p=.002).このことは,既存の自己免疫状態が,IIH発症の背景となっているわけではないことを示唆している.
悪性腫瘍に対する免疫チェックポイントの臨床使用が始まって約10年が経過し,その有効性と共に有害事象(免疫関連副作用)の頻度も明らかになりつつある.13,051例のビッグデータ解析では約5%にIIHが発生することが明らかになっている(文献7).本研究によってIIHの病態がPHとの関係においてかなり整理されてきており,臨床家にとって有用な論文と思われる.
しかし,なぜ,ACTH選択性なのかはまだ解けない謎として残っている.

<コメント>
今回,著者らは免疫療法関連下垂体炎と原発性下垂体炎について,3施設で経験された56症例をまとめているが,いくつか問題点がある.まず第一に免疫療法関連下垂体機能障害の原因薬剤には,免疫チェックポイント阻害薬の抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体(および抗PDL-1抗体)があり,これまでに異なる臨床像が示されている.
抗CTLA-4抗体では,投与後比較的早く,永続的なACTH分泌低下とTSH,LH,FSH分泌の(一過性)低下,下垂体MRIでの下垂体腫大,頭痛などを認める.かたや抗PD-1抗体では遅発性にACTH単独欠損で発症し,頭痛を伴わず,下垂体腫大もほとんど伴わない.両者の併用では抗CTLA-4抗体と同様の機能障害が比較的高率に認められる.
次に,正常下垂体にはCTLA-4蛋白の発現を認め,直接標的となるが,PD-1発現は通常認められない.また,抗CTLA-4抗体または抗PD-1抗体により下垂体機能障害を呈した剖検例がそれぞれ報告(Am J Pathol 2016; 180: 3225,Pathol Int 2021; doi:10.1111/pin.13161)されている.これによれば両者ともⅡ型およびⅣ型アレルギー機序が示唆されているものの,抗CTLA-4抗体ではⅣa型のみ,抗PD-1抗体ではⅣc型の機序が主であろうとされている.これらのことは,免疫チェックポイント阻害薬による下垂体機能障害の機序と病態は一つの概念ではまとめられないことを示している.
なお,最近,名古屋大学小林,岩間らは,ヒト下垂体組織を用いた高感度の抗下垂体抗体(APA)検出系を用い,免疫療法誘発下垂体炎の発症前後において下垂体自己抗体の有無を検索した(J Immunother Cancer 2021; 9: e002493).その結果,ACTH単独欠損症タイプの17例中11例において免疫治療前の血清で既にACTH細胞とFSH細胞に対する自己抗体が検出され,治療後15例でACTH細胞とFSH細胞に対する,13例および12例にTSH細胞およびLH細胞に対する自己抗体が検出された.また下垂体炎タイプの5例においては,抗CTLA-4抗体投与前ではAPAは検出されなかったが,治療後下垂体炎発症前に4例で新たにACTH細胞,TSH細胞,およびFSH細胞に対する抗体が検出され,エピトープ拡大ともいえる現象が観察されたという.
このように,免疫療法関連下垂体機能障害の機序と病態については未だに現在進行形で解明の努力が続いており,目が離せない状況である.
(淡海医療センター 先進医療センター 島津 章)

執筆者: 

有田和徳