どんな体型の人が下垂体腺腫になるのか:米国における29万人,25年の前向き調査から

公開日:

2022年1月24日  

最終更新日:

2022年1月24日

Body Habitus Across the Lifespan and Risk of Pituitary Adenoma

Author:

David J  et al.

Affiliation:

Channing Division of Network Medicine, Department of Medicine, Brigham and Women's Hospital and Harvard Medical School, Boston, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33417714]

ジャーナル名:J Clin Endocrinol Metab.
発行年月:2021 Mar
巻数:106(4)
開始ページ:e1591

【背景】

下垂体腺腫が生じるのはどのような体型の人なのか?本研究は米国における看護師などの医療従事者に対する健康関連前向き調査の3個のコホート29万人(女性24万人),735万人・年の追跡を基にした解析である.対象者は登録時のベースライン調査に続いて2年毎の質問表による調査を受けた.これらの調査で,対象者が前回調査以降に下垂体腺腫と診断されたと自己申告した場合に,調査時点から1年前に遡った時点を診断時とした.体型に関わる因子としては,BMI,胴囲,5,10,20歳時のソマトタイプ(ガリガリから洋ナシ形まで9段階のイラストの中から自分で回想して選択),身長を用いた.追跡中に387例が下垂体腺腫と診断された.

【結論】

成人期BMI≧30は<25に比較して下垂体腺腫の有意のリスク因子であった(多変量調整ハザード比MV HR=1.74;CI;1.33~2.28).成人期で最高のBMI値,胴囲,早期成人期(18~21歳)BMIも下垂体腺腫の有意のリスク因子であった(MV HR=1.76,1.06,2.65).高身長もリスク因子であった(1インチ毎にMV HR=1.05).20歳時の自己評価ソマトタイプは下垂体腺腫と相関があった.
感度解析ではBMIと下垂体腺腫の相関は診断の14年前まで遡ることが出来た.
結論として,若年成人期から診断時までのBMIと胴囲の高値は下垂体腺腫のリスク因子であると言える.

【評価】

簡単にまとめると,約30万人の看護師などの医療従事者の25年間の追跡期間に387人(0.133%)に下垂体腺腫が生じた.肥満体型は下垂体腺腫発生のリスク因子であったという話である.この有病率は従来報告されているそれとかなり近似しており(文献1,2,3),調査対象者の自己申告の正確さを反映しているようである.
本研究の強みは,感度解析によってBMIと下垂体腺腫の診断との相関が診断の14年前まで遡ることが出来た点である.これによって,未診断の下垂体腺腫や下垂体機能低下によって肥満が引き起こされているという逆因果関係(reverse causation)の可能性は否定できそうである.
2009年に発表された299例の下垂体腺腫患者を対象とした研究では,手術による閉経,若年閉経,若年での第一子出産が下垂体腺腫の発生(診断)と相関していた(文献4).
肥満が下垂体腺腫診断のリスク因子であることを報告したのは本研究が初めてであるが,高体重は膵癌や閉経後乳癌と関係していることが報告されている(文献5,6).また,体脂肪の多さが,甲状腺腫や子宮筋腫などの組織学的に良性の腫瘍の発生と関係していそうなことも報告されている(文献7,8).肥満とこれらの腫瘍発生のメカニズムに関しては,脂肪組織で産生されるエストロゲン,肥満に伴う炎症,肥満に伴う糖や脂質代謝異常などの影響が推測されている(文献7,9).
本研究の落とし穴としては,肥満者は自身の健康への関心が高いためホルモン検査や頭部画像診断を受ける機会が多く,そのために下垂体腺腫の診断が多かった可能性がある.しかし逆に,肥満者は肥満を自己の汚点(stigma)と感じているため,医療的ケアをうけたがらないという可能性もある.この点については,本研究の中で,最近の医療ケア利用者のみに限って感度解析を行ったところ,結果は変わらなかったとのことであるからいずれの可能性も全体としての結果に与える影響は少ないとは思われる.
本研究は,対象者の職種(医療従事者)が限定されているものの下垂体腺腫の発生に関してユニークな視点を提供している.他の住民集団で検証されるべきである.体型と下垂体腺腫のタイプ(非機能性あるいは機能性,産生ホルモン別)との関係も今後の課題である.

<コメント>
下垂体腺腫で最も頻度の高い非機能性腺腫の患者をみた場合,視床下部障害への影響が疑われる過食,下垂体機能低下による活動性低下や,甲状腺ホルモン・成長ホルモン・性腺ホルモンの分泌低下に起因すると考えられるメタボ変化を認めることが多いが,それを前向きに証明した米国ならではの大規模コホート研究であると感心する.本邦ではBMI>30の肥満は少ないものの,メタボ検診でのBMI高値・ウエスト周囲の増大が,生活習慣病のみならず下垂体腺腫の発生リスクを増加させる可能性に警鐘を鳴らす興味深い論文である.剖検例において偶発的に下垂体腺腫が発見される場合も多いが,多くは無症候で経過している.肥満自体が下垂体腺腫の発生に寄与するその直接的なメカニズムと,それに関連する詳細なホルモン分泌変化が明らかになるとさらに素晴らしい.今後,メタボ検診に下垂体MRIも含める必要性にも発展しうる興味深い結果と思われる.(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科・総合内科学 大塚文男)

<コメント>
本研究は,下垂体腺腫の発生と体型(20歳時にさかのぼった体型も含めて)に関連があることを初めて示した点がユニークである.体型の評価として体格指数とウエスト周囲径(WC)が用いられている.下記の文献4では,英国の下垂体腺腫患者299例において腺腫発生に関する危険因子を検索しているが,体型に関する項目は挙げられていない.
プロラクチノーマ患者(特に男性,大型腺腫など)では肥満が目立つことは以前から知られている.下垂体腺腫患者303例においてメタボリック症候群のマーカーを調べたトルコからの報告(Horm Metab Res 2019;51:709)では,プロラクチノーマ163例,非機能性腺腫86例,先端巨大症63例がエントリーされた.年齢・性別をマッチさせた健常人52例および非機能性腺腫症例と比較すると,WCおよびBMIはプロラクチノーマ患者,先端巨大症患者において共に有意に大であった.術後の下垂体機能低下に関しては下垂体機能低下症例でWCは大であった.これらは,下垂体腺腫が診断された後の体型との関連性を示すものであるが,機能性腺腫患者における体型の特徴,ならびに下垂体機能低下に及ぼす体型の影響は重要と思われる.
今回の研究対象は,2つの女性看護師のコホート,1つの男性医療従事者のコホートの統合であり,圧倒的に女性が多い.下垂体腺腫の内訳は調べられていないが,著者らも考察で述べているようにプロラクチノーマが少なくとも60%は占めているものと予想される.体型と関連する脂肪組織の代謝・炎症,インスリン抵抗性等とプロラクチンや他のホルモンとの関連性について, 今後の研究の発展に注目したい.(淡海医療センター 先進医療センター 島津 章)

執筆者: 

有田和徳

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