ダンベル型下垂体腺腫のドーム/ネック面積比が1.9以上だと経蝶形骨洞手術後に鞍隔膜上成分が残りやすい

公開日:

2022年2月16日  

最終更新日:

2022年2月17日

Dumbbell-shaped pituitary adenomas: prognostic factors for prediction of tumor nondescent of the supradiaphragmal component from a multicenter series

Author:

Micko ASG  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Medical University of Vienna, Vienna, Austria

⇒ PubMedで読む[PMID:34952511]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

鞍隔膜裂孔部にくびれを有するダンベル型の下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞手術では,鞍隔膜上成分の下降が得られず,摘出が不十分に終わったり(文献1,2),残った鞍隔膜上腫瘍内に出血を来たし術後視力低下の原因となることが多い(文献3).Mickoらウィーン大学とUSCのチームは過去10年間に通常の経鼻経蝶形骨洞手術を行ったダンベル型下垂体腺腫99例(非機能性腺腫95例,最大腫瘍径平均33 mm[17~71],平均体積13 cm³[2~88])を解析して,鞍隔膜上成分の下降・非下降を予測する因子を検出した.いわゆる拡大経蝶形骨洞法を行ったケースは対象から除外されている.

【結論】

手術中の鞍隔膜上成分の下降は73例で得られ(下降群),26例では得られなかった(非下降群).非下降群のうち23%(6/26)では残存鞍隔膜上成分内の出血のため,緊急開頭手術を余儀なくされた.下降群は非下降群に比較して平均腫瘍径,平均体積が小さかった(30 vs 42 mmと10 vs 22 c cm³,いずれもp<.001).水平断における鞍隔膜上成分(ドーム部)の最大面積と鞍隔膜裂孔部面積(ネック部)の比は下降群が有意に小さかった(1.7 vs 2.7,p<.001).この面積比のROC解析ではAUCは0.75で,1.9をカットオフとしたとき,感度77%,特異度34%で術中非下降を予測した.

【評価】

シンプルな結論である.ダンベル型腺腫のうち,特に鞍隔膜裂孔部分が狭く,鞍隔膜上成分が大きいものはバルサルバ法を用いてもその部分が術中に下降せず,腫瘍の取り残しが起こるので,残存腫瘍内に出血が生じ,術後視機能低下を起こすことがあるという注意喚起である.そのカットオフは鞍隔膜上成分の最大面積(ドーム面積)と鞍隔膜裂孔部面積(ネック面積)との比が1.9であったという.この関係はドーム/ネック比が未破裂動脈瘤の重要な破裂予測因子であるのと類似している.従って,そのような腫瘍では最初から拡大経蝶形骨洞手術などを考慮した方が良いかも知れない.そうしない場合でも,手術後の残存腫瘍からの出血が稀ではないので,直ちに対処出来るように準備しなさいという警鐘と受け止めることが出来る.実際に鞍隔膜上成分が残存した腫瘍では37%に腫瘍内出血が生じたと記載されている.
著者らは実際に面積をはかるのは面倒なので,臨床現場では,ドーム/ネック面積比を鞍隔膜上成分の最も大きい部分の横径×前後径/鞍隔膜裂孔部の横径×前後径で代用しても良いと述べている.
ただし,ドーム面積/ネック面積のカットオフ値1.9での感度は77%と高くなく,また実際のROC解析のカーブをみるとYouden indexが,どこが最大なのかわかりにくいカーブであり,1.9という数字にこだわるよりももう少し小さな腫瘍から,たとえば1.5くらいのものから用心して,対処すべきなのかも知れない.
対処の方法としては,拡大経蝶形骨洞手術や開頭/経蝶形骨洞同時手術が挙げられる(文献4,5).これら特殊なアプローチ選択以外にも,腰椎ドレナージからの人工髄液注入によって鞍隔膜上成分を下降させるという方法も考慮して良いかも知れない.また術中エコー検査や術中MRIあるいはCTで残存腫瘍の評価を行えば,次に行うべきステップの判断は容易になるであろう(文献6,7).

<コメント>
大型のfibrous adenomaの摘出は難しい.中途半端に腫瘍を摘出し,鞍上部に腫瘍が残存した場合,残存腫瘍に出血をきたし,視機能障害などの合併症を起こすことがある.また,無理に腫瘍を牽引すると,腫瘍に付着している動脈損傷のリスクがある.一方,腫瘍の形状も,くびれを有するものでは摘出に注意が必要である.この論文ではダンベル型腺腫に注目し,鞍隔膜上成分の最大面積と鞍隔膜裂孔部面積との比が1.9以上の場合,術中腫瘍の非下降が推測できるとしている.この結果は,ある意味当然ではあるが,このように明確に数値化したことに意義がある.一方,前述のように術前に腺腫の硬さを推測することも重要である.我々は経験的にT2強調画像で術前の硬さを推測するが,T2強調画像の低信号と腫瘍の硬さの相関については議論も残っている.近年MR elastographyが腫瘍の硬さを予測出来るという報告も散見される(文献8,9).この論文の結果と合わせて,今後腫瘍の硬さが術前に推測できるようになれば,ダンベル型の腺腫にどのような術式を選択するべきかをもう少し明確にできると思われる.
ところで,今回のシリーズでは術後の腫瘍内出血を理由とする再手術(開頭術)が7%であった.これは少し多い印象があるがいかがだろうか? 比較的難しい腫瘍を対象にしているためやむをえないのかもしれない.(日本医科大学脳神経外科 田原重志)

執筆者: 

有田和徳

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