非機能性下垂体腺腫摘出術後の成長ホルモン分泌能回復の予測因子はなにか:連続276例の解析から

公開日:

2022年2月16日  

最終更新日:

2022年2月17日

Postoperative growth hormone dynamics in clinically nonfunctioning pituitary adenoma

Author:

Kinoshita Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:29910227]

ジャーナル名:Endocr J.
発行年月:2018 Aug
巻数:65(8)
開始ページ:827

【背景】

非機能性下垂体腺腫は成人発症成長ホルモン欠損症(AGHD)の最大の原因であるが(文献1,2,3),摘出手術後にGH分泌能が改善するものや,むしろ悪化するものがある.広島大学のKinoshitaらは過去15年間に経蝶形骨洞的摘出術を実施した非機能性下垂体腺腫患者276例(男性143例,年齢中央値60歳)を対象に,手術後の成長ホルモン分泌能回復に及ぼす因子を検討した.GH分泌能の評価は,手術前と3ヵ月後のGH負荷試験(ITTあるいはアルギニン負荷)に基づいた.負荷試験におけるGH頂値<1.8 ng/mLをGHDと判定した.

【結論】

162例(58.7%)は手術前にGHDではなかったが,このうち13例(8.0%)が手術後にGHDとなった.
手術前にGHDと判定された114例(41.3%)中の29例(25.4%)が手術後にGHDから脱却した.
多変量解析では,GHDからの脱却を予測する因子は,若年,女性,初回手術,相対に高い術前GH頂値であった.初回手術例におけるROC解析では,年齢とGH頂値の組み合わせのAUCは0.82で,年齢62歳以下かつGH頂値0.74 ng/mL以上は感度82.8%,特異度72.9%でGHDからの脱却を予測した.術前GHDで62歳より高齢で,GH頂値が0.74 ng/mL未満では初回手術であってもGHDからの脱却は0%であった.

【評価】

本稿で示されたようにGHDを伴う非機能性下垂体腺腫患者において,若年,初回手術,相対に高い術前GH頂値が経蝶形骨洞手術後のGHD脱却の予測因子であることは,なんとなく想像が可能であるが,女性というのはどうなのか.過去の文献では男性の方が下垂体機能回復が良いという報告と(文献4),男性の方が新たな内分泌障害を来しやすいという報告が有るようである(文献5).今後,他施設のコホートで検証が必要である.
一方で,腫瘍径が比較的小さなものや,Knospグレードが低いもの(0~2)では,手術後のGH分泌能の回復率は高そうであるが,本研究ではGHD脱却症例群と非脱却症例群の間で差は無かった(27 vs 27 mmと65.5 vs 57.6%).GH分泌障害の完成には腫瘍径や腫瘍の形態以外の多くの要素が関係しているものと思われる.
本稿で示された情報のうち臨床的に特に重要なのは,手術前にGHDと判定された患者で高年齢,GH頂値が相対に低い患者では,腫瘍摘出後もGHDから脱却する可能性は極めて少ないという事実である.このような患者では,GHDに対する適切なモニタリングや補充の必要性をあらかじめ予想して準備しておく必要がある.また,本稿では,手術前にGHDでない患者でも,相対的に高年齢であったり,GH頂値が相対に低い患者では,手術後にGHDとなる可能性が高いことを明らかにしている.そのような患者では新たなGHD発生の可能性を予想して心構えをしておくことは大切であろう.

<著者コメント>
本稿がこれまでの報告と異なるのは,成長ホルモン分泌能を負荷試験を用いて評価した点である.周知の通り,GHDはホルモン基礎値のみによる診断が困難であり,過去の報告における手術前後のGHDの検討は不正確と言わざるを得ない.しかし,負荷試験によって得られる情報と下垂体卒中のリスクというデメリットを天秤にかけた結果,最近では下垂体腫瘍の術前負荷試験は敬遠される傾向にある.今後ますます術前負荷試験のデータを用いた研究は少なくなるのではないかと危惧される.
本稿と同様に負荷試験を用いて手術前後のGHD評価を行った研究として,本邦よりSogaらが報告している.この研究では非機能性下垂体腺腫に伴う術前GHD36例を対象とし,GHRP-2負荷試験におけるGH頂値4.59 ng/mL以上は術後のGHD回復を予測する因子であると報告している(文献6).我々の研究と同様の結果であり,GHD患者群の中でも,ある程度の成長ホルモン分泌能が残っていないと術後の回復は望めないことが推測される.
本研究の主題とはならなかったが,手術手技の違いでGHDの回復に差が生じるのか,という点も外科医の立場として注目していたが,腫瘍摘出率や術中髄液漏の有無とGHDの回復率に相関は認めなかった.また,本稿では触れていないが,我々がこれまでも検討してきた腫瘍偽被膜の摘出についても,被膜摘出の有無とGHDの回復率に相関を認めなかった.非機能性下垂体腺腫において被膜摘出を行うことの是非はさておき,GHDの回復を期待して腫瘍の部分摘出にとどめるという戦略には根拠がないかもしれない.術後出血のリスクも考慮すると,GHDの回復を期待する患者さんでも腫瘍全摘出を目指した手術を行うべきと考えられる.
(広島大学脳神経外科 木下康之)

執筆者: 

有田和徳